平成24年春のことだ。米国人歌手「レディ・ガガ」のティーカップを落札した日本人歯科医がいた。
宮城県大崎市の「弓哲玖(ゆみあきひさ)」氏(故人)」であった。
レディ・ガガは大の日本ファンで、東日本大震災で多数の犠牲者が出たことに驚き、胸を痛めていた。そして、大震災チャリティーオークションに、真っ赤な口紅の付いた「サイン入りティーカップ」を出展した。
当初は600万円という高額落札から、やっかみ、非難が殺到したという。
だがその非難は歯科医師には不本意なものだった。
なぜなら--
弓哲玖氏は、3.11震災直後、数えきれないほどの遺体の歯形から、犠牲者を特定するつらい作業に
寝食を忘れて携わったのだ。
ところが--
激務のせいなのか、「特発性肺繊維症」という難病を発症してしまう。
だが、自分の病気よりも、患者さんを優先するあまり、入院途中で無理やりに退院してしまった。
妹さんは、『ドナー登録しよう、細胞移植すれば、治る見込みもあるから』と、説得していたが、哲玖氏は
『--いや、私以外にも移植手術を待っている子供たちがいる。』
そう言ってドナー登録を断固拒否した。
症状が進行し、再び入院、死期を覚った哲玖氏は、妹さんに、『あのカップを宮城県に寄贈してほしい』
と遺言した。私費を投じ『復興目的のために出品されたカップを他の目的のために利用されたくない』
との切なる想いから落札した貴重なティーカップだった。
レディ・ガガは歌う。
♪この宿命に生まれて来た♪
『兄の最後は微笑んでいました--』
震災復興を最後まで願いながら哲玖氏は、静かに息をひきとった--
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