実力派のシンガーソングライター上田正樹。
店長はその昔、大阪でコンサートの機材を運び込むバイトをしたことがある。
仲間と大きなスピーカーなどをやっとの思いで運び込んだ。大阪中之島公会堂である。
だがコンサートの設営が完了しても上田正樹は現れなかった。
「--コンサートが中止になった。機材をクルマに戻してくれ」
そして、バイト代を貰って下宿へ戻った。
中止になるはずである。その日、「上田正樹」は”大麻取締法違反”で逮捕されていた。
芸能界大麻汚染は伝染病のように拡大していた。
大麻に限らず、薬物にはリスクが伴う。中毒になりやがて廃人になるという。
だが、手を出してしまうのだ。
薬物摂取で感覚が鋭敏になるらしい。
通常聞こえない音域でも聞こえるという。同情の余地もなくはない。
まったく、創作というものは骨身を削らないとできないものなのか。
♬泣いたらあかん、泣いたら、切なくなるだけ。大阪の街は、悲しい色やね♬
店長は、学生時代のあの日に還りたいと、心からそう思うのだ。