道具の箱書

 

茶会に使われる道具の多くは、箱書とよばれる墨書をした桐や杉の箱に収められています。
茶碗や茶器を例にとれば、楽焼の茶碗において、楽家何代の主人の製した茶碗であり、

その銘は何々ということが茶の湯の家元をはじめその時代の著名な茶人によって箱の蓋裏に

(時には蓋の表にも)書かれる習いがあります。

これによって、箱の内容となる茶碗や茶器の名や由来が明示され、

かつまた内容の道具が保証されるというのが、家元による箱書なのです。


これら道具は何処の産、何人(なんぴと)の作であるかのほか、

家元や名のある茶人によって、「銘」というのを付け加えられることがあります。

「銘」は、道具に付加された名称として、道具取合せの上に、大切な機能を持っています。
すでにみた通り、茶事・茶会においては、茶会に集まる客の心を満足させ、

主人の心づかいを客に伝えるのが道具であり、あわせてそれに付属の「銘」のはたらきによって、

道具が主客の心をつなぐ力をさらに強くすることがみられます。 

茶会において、床の間の掛物を中心に、主の心は客に伝えられ、

茶碗や茶杓の銘によって、主客相互の心の通いは顕著に強度なものとなるわけです。
 

書付ものというのが、単に内容の真偽を示すものでなく、道具のになう歴史のゆかしさを示したり、

銘によって道具の楽しさが倍加されるなど、その持つ機能は多彩で多義であるといえます。
 

長い歴史の内に伝えられた、多くの茶の道具は、室町時代中期より今日に至るまで、

名のある茶人(将軍より庶民に及ぶ多くの階層にわたる)によって、持ち伝え、保存され、

今日も各処にて拝見することが出来ます。

 

茶の湯こころと美 道具の箱書

 

右端:箱表 宗全作 ソノハラ 覚々斎花押(覚々斎宗全の子)

右2:赤茶碗削 銘其原 全花押

左端:宗全手造 赤茶碗 銘其原 覚々斎極 左惺斎花押