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アキバメイドが語る! メイド喫茶産業の舞台裏(後編)

(Business Media 誠 - 05月26日)

東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”:「メイドにホスピタリティーを学べば、癒し系男子になれるに違いない!」という理由で始めた、女子大生メイドあいりちゃん(メイドネーム)へのインタビュー。前編では、メイド喫茶の歴史や各店舗のポジショニングを見ていく中で、「別にメイド個々人には大してホスピタリティは必要ない」というがっかりな結論になってしまった。

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 プライベートのあいりちゃんは、飲み会を開くとなったら、わざわざ事前に飲み屋に料理の打ち合わせに行くほど細やかな気配りを持ち合わせている子なので期待していたのだが、前回の記事に肩すかしだった印象を受けた読者も多かったのではないだろうか。実際、筆者自身も肩すかしだった。申し訳ない。

 そういった理由で、前編ではある意味“調べれば分かる”程度の情報しか書けなかったわけだが、後編ではお金の話を中心に、オフレコな裏話についてあいりちゃんに語ってもらった。

●夢で飯は食えない

 前編で書いたように、あいりちゃんの勤める店舗は「時代物なのだが時代設定が無茶苦茶」といった類の、設定に凝ったコンセプトカフェである(そもそも歴史をしっかり勉強してきた人が少ないので、まともにそんなことを指摘するのはあいりちゃんくらいしかいないらしい)。駅の側にあるメイド喫茶は多いが、あいりちゃんの店はJR秋葉原駅から徒歩5分程度とやや遠め。また、後述する@ほぉ~むcafeの戦略の変化により、業界大手の同店から転職してきたメイドも多いので、メイドの質としても平均的だと思って構わないようだ。

 あいりちゃんのお店の売り上げは平日8万円(営業時間17時~22時、常連客が9割)、休日17万円(営業時間12時~22時、常連客と観光客が半々)程度だそうである。1週間の売り上げは74万円という計算になる。これに加え、たまに行われる誕生日や卒業といったイベント日は様々な付加サービスがついて売り上げが2~2.5倍になるようである。

 また、チャージ料は300円と比較的安いため、チャージ料を含めた客単価はドリンクのみの場合で1000円ほど、夕食の場合でも2000円ほど。そのため、回転率を上げるために90分ワンオーダー制をとっている。席数は30席ほど。価格帯としては少し高いファミレス程度で、同じく夢を売る商売であるディズニーランドより感覚としては安い。

 メイドは総勢25名弱、通常は4~5人のメイドでシフトを回しているようだ。また、アキバのメイドの時給の相場は850~1000円で、あいりちゃんの店は900円。シフトに入るメイドを4.5人と考えると、1週間で営業時間が45時間、準備・片付けに1~2時間かかるとすると労働時間は52~59時間となり、メイドたちへのお給金は1週間で21万~24万円ほどになる。売上高給与比率を計算してみると28.4~32.4%程度だ。

 ちなみに、比較対象としてスターバックス・ジャパンの2009年度3月期から計算してみると売上高給与比率は27.8%、上場廃止直前のドトールコーヒーの2008年2月期の中間期から計算してみると約12.2%となる。

 ドトールの数字が低いのは全1468店のうち1155店(2007年9月末時点)がフランチャイズ店と、直営店が少ないからで(直営比率21.3%)、比較対象としては全854店のうち、フランチャイズ店が28店しかないスターバックス・ジャパンの方がより業態としては近いだろう(直営比率96.7%)。

 巨大資本チェーンと独立店舗を比較するのは酷かもしれないが、大してメイドの給与が高いわけでも、チェキ※や様々なイベント商法などスタバ以上の高付加価値高価格戦略がうまく行っているという印象でもない。不思議なものである。

※チェキ……メイドさんとのツーショット写真を撮れるサービスのこと。

 ちなみに、スタバの売上高原価比率は29.6%なのだが、売上高給与比率が同程度であることから推察するにメイド喫茶でも同程度だろう。こんなにボロい商売なのに、諸々の費用を差し引くと売上高経常利益率は6.0%程度なのだから、商売とは不思議なものである。

 また、スタバの販管費からメイド喫茶では少ないであろう広告宣伝費を足し戻すと、経常利益+広告宣伝費の売上高比率は約7.0%になる。これをそのままメイド喫茶に当てはめると(実際にはスケールメリットが働くスタバの方が有利な数字になる気はするが)、あいりちゃんの店の年間(52週間)のオーナー収入は269.4万円になる。実感としては妥当な数字だが、夢を追って飯を食うことは、現実にはなかなか難しいようだ。

●@ほぉ~むcafeの大衆戦略

 メイド喫茶大手@ほぉ~むcafeの話を始める前に、少しだけメイド喫茶の資本関係について書いておこう。

 女の子が給仕するという業態のイメージから、メイド喫茶にも反社会的なブラックマネーが流れ込んでいるかと思いきや、そういった怪しげなバックグラウンドがあるものはむしろ少数派であるようだ。実態としては全くの個人が夢を追って運営していたり、オタク関連商品の物流を扱っている会社がプロモーションの一環として行っている場合が多く、系列化も進んでいない。ほとんどが1店舗展開だ。あいりちゃんの店も、個人の独立経営だ。

 アキバメイド喫茶業界で最大手の@ほぉ~むcafeでさえ5店舗展開(そのうち、4店舗はアキバ内の同じビルに入居している)で、2007年の栃木県宇都宮市を足がかりとした地方進出には失敗しているので、なかなか資本の蓄積も進まないのだろう。

 また、メイドのキャラを立たせるだけの放任経営が多く、新メニューや価格の決定についてもメイド自身が行っている場合が多いので、ノウハウの蓄積が進まない傾向にある。メイドを束ねる“メイド長”(無論、雇用形態としてはアルバイトである)が、実質的に店舗の運営をしているケースも少なくない。

 そんな中で@ほぉ~むcafeの独自性を考えると、やはりマニュアルを用いた管理経営と、メディア戦略に行き着く。

 「アット(@ほぉ~むcafe)は、萌え萌えじゃんけんとか、そういったイベントを徹底してマニュアル化していて、一見の観光客でも楽しめるという面が強いかな?」とはあいりちゃんの弁だが、マニュアル化のせいで失ったものも多いようである。

 「うちの店舗を含めて、普通はチェキとかのバック(マージン)はないんだけど、2007年頃にアットがバックマージン制を始めて、チェキのノルマとかまで作ったみたいなの。その時に、そういうのが合わなくてアットを辞めた子が多いみたいで、ほか(のメイド喫茶)に流れたみたい。だから、うちのお店もアット出身の子がスゴく多い」とのことだ。

 現在の@ほぉ~むcafeはあっとぐみに代表されるように、マスメディア露出を狙ったアイドル業をメイド喫茶業と並行して行っており、感覚としては“会いドル”(会いに行けるアイドル)路線で差別化を図っているAKB48に近い。その中から何人かのグラビアアイドルも生まれているようだから、アイドルの登竜門としても小さな成功を生み始めているようだ。あっとぐみのメンバーの顔写真を見ても確かにカワイイ。

 だが、ルックスやキャラ作りがあまりに大衆化しすぎていて「アイドルならばもっとスター性のある子がいるし、会いに行くならばAKB48で十分。それってメイドである必要はあるの?」という問いに答えきれていない感がある。これが、初期のメディア戦略が効を奏したメイドブームが終わった今、サブカルと大衆化の間で揺れ動く@ほぉ~むcafeの課題だろう。

 メイド喫茶やその関連業界全体に言えることだが、地方展開の様子を見ていると今のままではコスプレ・キャバクラやイメクラ※と何が違うのかがイマイチはっきりしない。業態が喫茶店のままでは利益率も改善しないし、現状ではメイドあるいは“2.5次元”の世界観が何ら定量的な付加価値になっていない。それならば地方展開をする時に、わざわざメイド喫茶というポジショニングを行う必要もない。さらに言えば、そのポジショニングのせいで、逆に一般の客を遠ざけているきらいもある。

※イメクラ……イメージクラブの略。風俗店の一種で、女性従業員が学生服やナース服などさまざまなコスチュームを着るのが特徴。

 オーナーの皆さんが夢を追って経営している傾向があるので、ゆっくりと新規顧客が減少し、淘汰が行われている現状がそのままで良いというのならばそれでもいい。だが、メイド喫茶を新たな文化として、全国へ、そして世界へ展開するのならば、もうちょっとこのあたりをはっきりさせた方がいいのではないのかな? と感じる次第である。

●時給850円でもメイドを続ける理由

 ここまでは経営サイドの視点でメイド喫茶を見てきたが、ここからはメイドの視点からメイド喫茶を見てみよう。

 前述の通り、アキバメイドの標準的な給与は時給850~1000円と、普通の喫茶店と同程度、むしろ山手線沿線という立地を考えれば低いくらいだ。また、@ほぉ~むcafe以外のメイド喫茶はチェキのバックマージン制をとっていないことも多いので、アイドル業に精を出す(通常の店舗でもイベント商法のために勤務時間外にダンスの練習をしたりと色々と大変である)直接的な金銭的インセンティブも少ない。

 それでも、彼女たちが“お給仕”をやめようとしないのはなぜだろうか。

 「1つには、アキバのメイドであるというステータス。やっぱり、アニメとか好きな子が多いから、そういうものへのプライドは高いよね。アイドル志望の子だと、ここを足がかりにすることもできるから、そういった動機の子も多い」

 やはり、非金銭的なインセンティブというのはなかなかに大きいようだ。

 「それに、そういうキレイゴトの面もあるけれど、やっぱり大きいのは、案外貢がせることができるってことだよね。旦那さま(男性客)とメアドとかは交換できないから、ブログとかmixiとかで営業することになるんだけど、ブログに『~が欲しいなぁ』って書くと、持ってきてくれる人も多い。キャバとかと違ってプレゼントの見返りを求められないのが楽かな。中には、誕生日イベントを見計らって、価格帯別に欲しいものをランク付けして書いている子までいて、そういうのを見ているとがめついな、とは思うけどね」

 あいりちゃんは、メイドの掛け持ちは大変だということで、居酒屋でもバイトしているのだが、居酒屋と比較するとメイド喫茶の離職率はかなり低いようである。大きな裁量権の付与や承認欲求の充足、漠然とした次へのステップアップへの希望、離職率を低下させる方策としては一般化できる話である。

 先日、経営戦略の授業で「シャープよりサムスンの方が東欧における工場の生産性が高いのは、現地スタッフへの裁量権の移譲が大きな要因の1つだ」という話があった。それによくよく自分自身を振り返ってみると、打たれ弱い現代っ子であり、特にマスコミ志望でもない筆者が、心ない匿名の中傷に耐えながらもコラムを続けているのも、好きに何を書いてもいい裁量権や、自分の文章がmixiニュースやYahoo!ニュースといったメディアにも配信されることによる承認欲求の充足、それに自分の著作の宣伝ができること、本や雑誌などといったメディアからお声がかかるかもしれないという淡い希望があるからだ。

 結局、メイドも筆者も同じ枠組みの中で踊っているようである。ちなみに筆者なら、プレゼントのように可愛らしいものではなく現金が欲しいのだが……。いや、品行方正な東大生である筆者はそんな即物的なものより、あなたの温かいはてなブックマークやmixi日記のコメントの方がもちろんうれしいというのはここだけの秘密だ。

●結局、メイド喫茶とは何なのか?

 色々書いてきたが、最後に筆者の私見を書いておこう。

 メイド喫茶とは、結局は単なる「カワイイ女の子がメイド服を着て接客をしている喫茶店」である。緩やかなコンセプトリーダーはいるが、マーケットリーダーがいない参入障壁の低い完全競争市場の中に100店舗以上がひしめいているので、「常連に対する差別化を頑張ってみたらこんな風になりました!」というようなマーケットでしかないだろう。

 目立ったマーケットリーダーが存在せず、老舗でもバタバタ潰れているのは、ある種どの店も根本的には同質で、経営がそこまでうまくないという証拠だろう。学べるものがあったのか、筆者にはイマイチよく分からない。

 無論、経営学的なポジショニング分析でも行えば面白いのかもしれないが、要素が多い割に各要素のインパクトの違いが全然分からないので(「猫耳ナース服」と「ミニスカ巫女さん」との間にどんなターゲティングの差があるのか、筆者には毛頭分からない)、こじつけにしかならないだろう。現在のように、各メイドのキャラに常連確保を依存しているような状況の中では、往々にしてたまたまカワイイ女の子が多かったから、というのがKBF(Key Buying Factor、購買要因)になりえる。

 非常にうがった見方をすれば、「サブカル的なものに商業資本はなじまず、逆に言えばなんだかんだ言いつつ、どんな巨大資本もマーケットリーダーにはなりえないからこそ、サブカルはサブカルであり続けるんだろうな」という妙な安心感だけは残った。

 メイドなどのサブカルを大衆文化にすることを画策する動き(ここ最近は落ち着いたようだが)は、そううまく行かないのではと筆者は考えている。

 例えば、あいりちゃんも知り合いだという女装メイド喫茶「雲雀亭」の仕掛け人※のように、身銭を切ってサブカルをよりコアな方向に持って行くものは歓迎されている面もあるが、森永卓郎先生のようにメイド検定を作ってみたりと、メイドを画一的な大衆サービスにしようとする方向性は、現況としても展望としてもイマイチうまく行く気がしない(メイド検定を主催する日本メイド協会の協賛企業を見る限り、大して組織率も高くなさそうである)。

※話を聞く限り、普段は一流企業のお偉方のようだ。雲雀亭以外にも、様々なイベント系コンセプトカフェや常設メイド喫茶への個人での資本参加もしているらしい。将来は、こういうお金の使い方をできる漢(おとこ)になりたいものである。

 サブカルとしてのメイド喫茶を望む筆者ではあるが、取材が終わった後、あいりちゃんに「これからお給仕なんだけど、一緒に行く?」と言われたが、「平日は常連客が9割」「一見さんに対してメイドはほの暗い感情を持っている」という取材内容におののき、すぐに一緒に行く友人も見つからなかったため、断念したというエピローグもある。

 だから、非日常空間――“2.5次元”の演出もよろしいが、もっと敷居の低い場所になってくれてもいいかな……と、旦那様へのお給仕へと向かうあいりちゃんの後ろ姿を見ながら、ボーッとそんなことを思った次第である。

 そうそう、先週のラストで触れた問題に答えるのを忘れていた。「なぜ、アキバの駅前でビラを配っているメイドは、あまりカワイくないのか?」

 答えをあいりちゃんに教えてもらって、記事の結びとしたい。

 「今のメイド喫茶はほとんど常連で回ってるから、一見の観光客を呼び込んでもあんまり意味がない。ブームが終わり、どのお店も良くはない売り上げの中でメイド数人のギリギリ(の人件費)で回しているんだから、ビラなんて配っているのは常連が寄り付かない、メイドのレベルが低くて暇でつぶれかけのお店だからに決まっているじゃない? はっきり言ってアキバのイメージ低下だから、アレはやめてほしいよね」


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