こんばんは

以前 私の 米問屋を営んでいた実家のお話をいたしました

今夜は
その続きを少しお話させて下さい

私の実家は 代々 天理教を信仰していました

特に熱心だったのは、祖母の母でした
(祖母は婿をとり商売の跡継ぎをしました)

祖母の母は 数人の子供を産むと
世話は 家人や住込の女中さん達に任せて
何日も布教に出る という熱心さでした

徒歩で 全国を歩いたのです

明治生まれの祖母の さらに母の時代です
今と違い、道なき道を行くのです

夜間を峠で 越さなければならない時は

山の木を登り
木に体を縛り付けて 眠る
そうやって、襲ってくる山の獣から身を守ってまで

自然に祖母も熱心な信者になりました

私も子供の頃は、祖母から
天理教のお話をたくさん聞かされました

市内には 祖母の母が天理教に
寄付として捧げた天理教の小さな教会がありました

しかし天理教本部から来る代々の会長さんは
信者を増やすことが出来ずに

次第に無人の教会になって
荒れ果ててゆきました

私が小学生の頃

祖母は
私の母を伴って
教会の掃除に行く事になりました

掃除道具を持って
夕方 店の仕事の後に
二人は教会へ向かいました

真っ暗な教会の勝手口に着いて
外側の南京錠を開けますと
中から
「ふーん、ふん」と
まるで赤子でもあやすような
優しい声が聞こえて来ました

母は祖母に
「誰か親戚の方が来ているのではないかしら?」
と言いましたら祖母が
「今 私達が鍵を開けたじゃない」
と言います
なるほど、では気のせいか
と思い、中に入りました

中は埃だらけで荒れていました

母が掃除機をかけ
床を拭き掃除していますと
目の前の階段に向かい

真っ白なタビと真っ白な襦袢を履いた足が歩いているのが見えました

母は祖母に
「お義母さん、こんなに汚い所を掃除するのに、なぜ真っ白なタビなんか履いているの?」と
その足に向かって、声をかけました

すると

後ろから「え?なんだい?」と

バケツで雑巾を洗っている祖母の声が
聞こえました
祖母はいつもの茶色の着物と茶色のタビ、といういでたちでした


母は祖母に状況を説明しましたら
祖母の顔が真っ青になりました

その直後

トントントン

とさも階段を駈け上がるかのような音を二人は聞きました

祖母の逃げ足は
とてつもなく早かったそうです

母も悲鳴をあげて
祖母に続いて外に転がり出ました


二人は
勝手口の向こうの
揺れている裸電球
その下に
ひっくり返っているバケツや
コードが差し込んだままの掃除機
それらを
しばらくは震えながら
見ていました

普段は優しい姑ですが
その時ばかりは
母に「掃除機を取ってこい!電球を消してこい!」
と命令口調だったそうです

帰る道々
祖母は
「母は、教会に居るときは常に真っ白な身なりをしていた‥」と
歯の根も合わない程がくがく震えていたそうです

母は、自分の母親でも
幽霊となると怖いものなのだな
と 妙な納得をしたそうです

さて二人が帰ってきた後
家は大変な騒ぎになりました

霊感など全くない祖母や母でしたが
幽霊の方が
「おー、娘と 孫の嫁が来てくれた、嬉しいのう~\(^^)/」と
歓迎して出てきたのでしょう

母は今でも

恐ろしくて、とてもじゃないけど 再会の喜びに浸れなかった

と言います

それからまた数年 その教会は
無人のまま
という状況が続きました

祖母は熱心な信者でしたから
天理教本部にて
教会の会長になる資格を貰っていました
後年は
その資格を持って
幽霊騒動があったにもかかわらず
数年間 会長として
その教会に暮らしたのでした

その頃は、私は大人でしたから
祖母に聞きました
「幽霊が出たのは覚えてる?よく住めるね!」と

しかし祖母は
「自分の母親だから、怖くなかったよ(^^)d」と
言うのでした
(嘘ばっかり!歳のせいで 恐怖も忘れたんでしょ!)と
私は内心 毒づくのでした

熱心な信者が揃っている実家でしたが
孫の私の代には
全く熱心ではなくなりました
親類もたくさん信者がおりましたが
私のいとこ達は 誰一人 信者ではありません
むしろ 無神論者ばかりです

でも確かに神様はいらした
祖母が
まるで神様のようなお人だった

子供の頃、激しい歯痛で苦しんだ夜
祖母は私の口に 長ネギの匂いのする掌を当てて
天理教の歌を歌うのです
すると歯痛が治まる

そんな体験を何度もしました

おばあちゃんの手は魔法の手

そう信じていた子供時代

大人になってからも
困った事があると
祖母の住んでいた教会にゆき
お祈りをする

困った時の神頼み

さらに後年
いよいよ歳をとった祖母は家に帰ってきました
最後を看取ったのは、母でした
寝たきりの祖母でしたが
ある夜 [月の砂漠]を歌っていました

ふと歌がやんだので
「お義母さん、もう歌わないの?」と
声を掛けました

祖母は幸せそうなお顔で
息を引き取っていたそうです

おしまい

読んで下さり
ありがとうございました

またよろしくお願いいたします
o(^o^)o