【大きな車輪】 | カリフォルニアの建築家日記

【大きな車輪】

10:00pm 太平洋37,000フィート上空

さっきまであんなに沢山の人が周りにいたのに
機内はガラガラ。

飛行機に乗ると不思議に落ち着くのはなぜだろうか?

自分の寝室に帰ってきたような、ゆっくりとした空間。

ホテルのように決して癒しを感じるスペースではないけれど

イームズチェアーのようにけして座って気持ちのよい椅子とはいえないけれど。

不思議と落ち着くのはなぜだろう?


“Going home or Traveling?”
「帰宅ですか、それとも旅行?」

夕食を済ませ機内のライトがけされるとワイングラスを片手に挨拶をしてきた

マシューさんはシリコンバレーでソフトウェアエンジニアを勤めるプログラミング・マネージャー。 世界中、トラブルシューティング(問題解決)をするために旅しているらしい。


“So, Going home or Vacation"
「帰宅ですか?それどもヴァケーション?」

アメリカ人らしいフレンドリーな笑顔で聞いてくる。

"That is an interesting question… ,
     I am going Home but a sort of a vacation.. :"

「そうですねぇ。。 家へ帰っていると言えばそうですが、
                 一部ヴァケーションというか。。。」


そんな感じて会話が始まった。

ロスを出てから3ヶ月が経とうとしている。 
もっとも4週間ほど前一日ロスに寄ってみたものの。。
(分かる人はわかるよね。笑)

ロスに住んでるけどパリに居る?
バケーションでもないのに。

いったい何者か?ということになる。

別に億万長者であるわけでもないのに、
なぜ、どのようにして ロス/パリ間を行ったり来たりしているのか?

「ただ、以前から夢に抱いていたことなので、今やってみることにしただけ。
  もちろん事前に計画を建ててからですけどね」

説明しようとすると長くなってしまう。。 そういう時は同じ質問をすることにしている。

" What about you, Mathew?
    You are based in California.. but where're you originally from?"

「マシューさんは? カリフォルニアがベースなのは分かったのですが、生まれは?」

テキサス週で育った彼は18歳を過ぎカリフォルニアに渡りコンピューターサイエンスを学びシリコンバレーへストレート。 

以来、とんでもない大きな機械の一部になるとは思っていなかった。
大学をトップクラスで卒業後、入社してからも次々と仕事をこなす。
一つの仕事ができるようになったと思えば次の仕事を受け継ぐ。
プロジェクトを次々とこなし、昇格する。

やがてマネージャーへ。

マネージャーに昇格した彼は世界中から沢山のSOSを受けることになる。

仕事はとても好きだし、情熱を感じている。
数々のプロジェクトチームをマネージし、シンガポール、タイランド、インド、香港、中国、そして日本と飛び回っている。

「当然、当初は楽しかったですよ。 でも今は止めることのできない大きな車輪の間に挟まれているようで。。  ここでやめたら今までの苦労が台無しになるし。。」

そう言うと彼は進んできた道を振り返っては、戻ることのできない電車に乗車してしまったような不安感を抱いているようだった。

昇格すればするほど、自由な時間が失われていく。

社会が彼を必要とすればするほど、自分の行動が束縛されていく。

進めば進むほど、一人ぼっちになり、自分ではどうしようもないなにか大きな渦巻きにのみ込まれていく。

いつどこで間違えてしまったのだろう?

勉強、頑張って有名大学へ行って

一流会社に入社して昇進して。

一人前になって沢山のプロジェクトを抱え、
沢山の人から尊敬され仕事にも情熱を感じている。


「何も間違ってはいないと思います。これもプロセスなのかもしれませんね。」

何かを達成するためには限度を理解することが必要だと思う。
”やり過ぎ”も一つの練習であって、これ以上できない状態を一度経験してみることも一理あるのかもしれない。

ただその”やり過ぎ”が“癖”になってはいけない。

人はどんな非常なことでも繰り返せばなれてしまう。

どんなに楽しいことでも続ければつまらなくなってしまう。
どんなに悲しいことでも続ければなにも感じなくなってしまう。
どんなに忙しくても継続すれば心を失ったことすら気がつかなくなってしまう。



そうなる前に一度横道へ外れてしまうのも良いかもしれない。

一度横道へ外れ、今来た道を振り返ってみる。
一度横道へ外れ、今から進む道を振り返ってみる。

外から見れば、自分が乗っていた電車を見るばかりか、実は沢山の電車が走っていることに気がつくかもしれないよ。


一度乗ったからといってずっと乗っていなくてもいいのだよ。

10年、20年、30年、40年、そして50年。

いつになっても遅くない。

もっと早い電車もあれば、もっとゆっくり走る電車もある。


彼が今一番必要なもの。

それは“時間”だった。
ちょっと立ち止まって考えてみる

なぜだろう?
成功すればもっと自由になるのではなかったのか?

昇進すれば安心した生活を送ることができるのではなかったのか?


何が悪いのか?

彼が悪いんじゃない。

社会が悪いわけでもない。

誰も悪くない。

ただ乗っている電車が違うだけ。


次の駅で降りてみれば?

ダメならまた乗ればいいから。








See ya,

D