カバンの話 | カリフォルニアの建築家日記

カバンの話

「これ以上続けるとは命に関わります。
少々休養をとってバケーションでもとってみるのはいかがでしょうか?」

ドクターの提案がきっかけで、やっとバケーションをとることにする。

彼が最後にとったバケーションはもう5年以上も前になる。
ハワイに2週間家族旅行を含めてのことだった。

インターネット割引でタヒチ島にあるプライベート・ビラを見つけ、
ショート・バケーションをとることをやっと決心する。

「体あってこそ人生だらな。」

家族もこんな機会に南国の島にバケーションとあって
自分の病気も全てが悪いわけではないと思うだろう。 

ビラにつくと即座にインターネットのコネクションを探す。
光ではないが、DSLのコネクションでまずまずのスピードである。

せっかくのバケーションというのに、
フライト中にたまった山済みのEメールを一つ一つチェックしないと落ち着かない。
朝食を片手に次々と仕事をこなしていくが、アウトルックの緊急表示のメールで
コーヒーを机に置く。

「あいつ、また間違えたのか。。」
ブラックベリーのスピードダイヤルを押すと
自動的にオフィスのエキステンションにつながる。

オーダーには間違いないようだが、クライアントとの対応の仕方が悪いようだ。
いつになったらマニュアルにないことを部下に教えることができるのだろうか?

最後のメールをチェックし終わるころには既に12時を回っていた。

昼食をビーチ沿いで済ませ家族とゆっくり散歩する。

道端でバックスキンを使用したハンドバックを作る男をみて
そのバックのクオリティーの高さに驚く。
妻も必要以上に2-3個と衝動買いをする。

母国で販売すれば3万、いや6万ぐらいでブランド価格設定で必ず売れる。

「これはすばらしいバックだね。 どのくらい時間がかかるの?」
彼は黙々と作業をする男に質問する。

「もう10年以上やってますので、一つ2時間ほどでできます。」
男はそうつぶやくと、作業に戻りもくもくとスキンを編む。

クオリティーの高さと効率のよさに感動する。

「そうなると、一日8時間で4つは作れるね」
仕事柄彼は詳細も聞きたくなっている


「いや、一日一つ作っるだけですよ。 
  もっとも、、家族と一緒に編めば一日12個ぐらいはできるますが。。   
         親戚もみんなこうして作るものですから。。」


「え?? 一日に一つ? じゃぁ 残りの時間は何してるの?」
そんな質問をする彼を見上げ、男はテレながらボソボソと呟く。

「朝10時ごろ起きて朝食し、
 お昼にはカバンを作り、
  家族と一緒にシエスタ(昼寝)し、

    夕方友達とギターを弾いてマリアッチを練習して、
     夕食前にサーフィンして、
      残りはその日その日でみんなで飲んだ暮れたり。。

ミスター、こう見えても私はとてもいそがしい毎日を過ごしているんですよ。。」


男のビジョンの狭さに感嘆すると彼は自身満々で会話を続ける。

「おい。おい。。今日はあなたにとって本当にラッキーな日になるだろう。。。。
僕はハーバード大学、ビジネス課でMBAを取得している。
君にビジネスの基本を少し教えてあげよう。
このようなクオリティーの高い商品を作る君なら、
きっと人生を変えることができるだろう。」



「どんなすごいニュースなのですか?」
男は驚いた表情で彼に質問する。


「そうだな。まず、君のバックを作る弟子を沢山作るんだ。 
大量生産する体制を固める。
クオリティーを落とさず効率的に大量生産するんだ。
価格設定もあまり高くせず、
良い質・そして低価格といったビジネスモデルだな。」


「それからどうすればいいですか?」
男も興味深深だ。

「ここからチャレンジなんだよ。
製品が起動に乗り始めたら中間業者をカットしていく。
価格ももっと落とせるし、
直接バイヤーに販売する体制を作り始めるんだ。
量がでればもっと向上を拡大できるから、数もだせるし、質をコントロールするための管理やアフターケアーまで完璧に作ることが出来る。」


「うん うん、それから?」


「君の会社はこの町で一番になっているはずだけど、
ビジネスを拡張するためにはこの町を出て、
メキシコシティーに選出し本部を作る。
いずれ、ロスに販売店を展開し、シカゴ、ニューヨーク。
ヨーロッパはパリに拠点を置けば、アジアは簡単に落とせるよ」


「それはすごいことですね。こんなバックでも世界に進出できるなんて。。」
男の口はポカーンと開いたままである

「そうなんだよ。問題はビジョンをしっかりもち、
ビジネス戦略をつくることなんだ。」


「そうですか。私にはどうだか。。っで、それからどうします?」

「ここからが君の夢がかなう瞬間だよ。
会社がグローバル化することで、タイミングがよければIPOだ!
(Initial Public Offering 新規株式公開)」
彼は誇りそう続ける

「確かに運も必要だけど、専門家をきちんとつければ必ず上場できる。
世界一流のデザイナーを雇い君のバックもグッチやビトンと並ぶ製品だ。
それから時期をみて君の会社を売ることができるだよ。
  カバンを売るのではなく、会社そのものを売るんだよ。
       10億、100億。 君もMillionaire(億万長者)だよ!」

彼自身、話ながらエキサイティングしている

「だけど。。 どのくらい時間がかかりますかね?」


「そうだな。チームの作り方や当然マーケットリサーチの対応にもよるが、
早くて15年、遅くて20、25年だな。
悪くないだろう?」


「そんなに早くですか? 
    っで、それからどうします?」



「それから? 当然だよ。‘花のリタイヤ’さ!
南国の島で朝はゆっくり起きて、そうだな。10時ごろ朝食。
  お昼は家族と一緒にシエスタ(昼寝)し、
    夕方友達とマリアッチ。
       夕食前にサーフィンして、
          残りはみんなで飲んだくればいい!。」


「。。。。。。。。」








先日大学時代以来会っていない友達とディナーをした。
彼は建築学科を卒業後、ビジネスの道に進み博士号を働きながら取得した。

一日14時間といった大変は労働時間であるが、
このまま進めば10-15年で管理職となり、
手取り1-5億円のアセットを手に入れられるという。

腕には車が買えるほど高級な時計をしていた。

「そんな沢山稼いでどうするの?」っと聞くと

「一億銀行にあれば、利子だけで十分生活ができる。
株と401Kなどをマネージする専門家さけつければ、
後は適当に趣味を探してリタイヤする。。。。
できれば、 ヨーロッパ、アジアに旅行に行きたいな。。。」


「リタイヤ」というと昔から長距離の旅行や南国の島に住むといった
自分の社会から離れることを創造する。

実際にその旅行に必要な経費などを計算してみたか?と聞くと
まだ先のことだからという。

彼はいろいろな夢を創造し、目的をもっとがんばっているが、
実際の夢は実は今できることは想像もしていないようだった。

そんな彼の話を聞く際、こんな言葉を思い出す。


Begin with the end in mind

最後のシーンを胸に置きながら始めよう。



目的地に向かい頑張っているつもりでも
実はその目的地は自分の庭で見つけることができるかもしれないね。



see ya,



D.