リチャードの話 | カリフォルニアの建築家日記

リチャードの話

日付変更線をいくつ超えただろうか。
夕食も終わり機内の灯りが消される。

読書に深く入っている自分をみて
隣に座る方が個人用灯りをつけてくれた。

" What are you reading, if you don't mind? ”

「何を読んでいるの?もし良かったら聞かせてくれないか」

"Not at all, it is called 'MYSELF' by Charles Handy.
A friend of mine recommended this book to me a few months ago but I never had a chance to read it,
so, here I am..”


「ええぇ。 チャールズ・ハンディー作のMYSELFという本です。
 友達から以前読むことを薦めてくれましたが、チャンスがなくて。。
今となったわけです。 笑」

「そうか。世の中本を読む時間も惜しくなってきたものな。。。」
そういいながら、右手を大きく伸ばし、握手を求めてきた。
しわくちゃな手の薬指に大きな金の指輪と背広の裾からは
ユニークな金のカフスリング、自分の右手を強くギューっと握り握手をかわした。

「I am Richard」

「Dais-K、Nice to meet ya.」

そんなことから2人の会話が始まった。
「人生は一瞬のうちに終わってしまうもので、後になって振り返ると2つのことしか
覚えていないという。」

一つはとても楽しかったこと。
もう一つはとてもつらかったこと。

楽しかったこととは友達や愛する夫・妻・そして子供との経験であり、
何を買ったとか、いくら稼いだかというGreedからではないという。
※Greed=
強欲
、貪欲
、欲張り
、拝金主義など


つらかったこととは友人や家族を亡くした時や達成する前に限界まで自分を追い詰めた厳しさなどが
つらい思い出として覚えているという。 
結果、両者とても大事な経験で つらいことも楽しいことを経験することが
人生を生きているという証だと語ってくれた。
XO Cognacを左手に彼はこんなことを話してくれた。


自分は過去30年間、あらゆるビジネスで成功してきた。 

でも決して仕事を楽しんだわけではなかった。
仕事が本当に嫌いで、
嫌いな作業を嫌いな人達と時間を過ごすことが
本当に辛かった。

辛抱強かったといえばそれまでだが、実は「癖」になっていて
せっかく始めたのだからここでやめたらもったいないと思っていた


毎日やめたかった。そんな日々が1週間、一ヶ月、一年、
十年と過ぎ
30年が経っていた。 気がつくと友達らしい者はだれ一人いなく、
お金目当てに集まる友達・親戚しかいなかった。 ガラージ(駐車場)には高級車や沢山のコレクションが並ぶが、本当に必要な時間と信用出来る友がいなかったという。彼は本当は自分が一体何をしたいのかがわからなかったという。


「30年間かかり遠周りしたが、結果ビジネスの成功・
失敗に関係無く、自分が満足したい環境はすでに存在していた」という。

どんな環境なんですか?と聞くと彼はそっと微笑み、
自分の左肩をポンと叩いた。

自分が探しているものは実はわりと近くにあるものなんだ。
カクテルなんて何十杯も飲めるものではないし、どんな大きな家に住んでも使う場所は手を広げる範囲で十分だ。 数人の大切な家族・友達とゆっくり夕食ができればこんなにすばらしいことはないじゃないか。

君はまだ若い。 私がした間違いだけは絶対に避けるべきだよ。

自分が信じることを今するべきだ。 30年待ってから人生を楽しむなんておかしい。
本当にしたいことはそんなに大げさなことをしなくてもできるものなんだ。

一生懸命働くのは当たり前だ。 だが、働く前に十分自分に時間をとり、
一体自分が何をしたいのかということを、自分なりに理解しなければならない。

「人生ゲームをプレイするのにルールや目的がわからなければ、
楽しめないだろ。」


そう語ると、彼はそっと目をつぶりこう言った。

「私のようなつまらない者だが、話を聞いてくれてありがとう。」




無事飛行機が着陸し、彼と別れる際
読み終わったばかりの「MYSELF」をプレゼントした。


彼はそっとウィンクし、またどこかで会おうといってくれた。



Richard, 
貴重なメッセージ、ありがとう。 大切にします。




Have a wonderful life,





D.