プロフェッショナリズムと
数字至上主義の衝突
最近、職場で新しいマネージャーが就任した。
そのマネージャーが
こんな例え話を得意げに語る。
「高級ジュエリーショップに
年間何万ドルも使ってくれる
お客さんが来たら
最高のサービスをするだろう?
うちの仕事も同じだ。
彼らは大切なお客さまであり
私たちの給料を払ってくれている。
だからGood(そこそこ)で
満足せず、
Best(最高)を目指せ」
なるほど、一理ある。
だが、その言葉を聞きながら
私の胸の奥では違和感が渦巻いていた。
その例えを借りるなら今の私はまさに
「価値のないダイヤモンドを高く売れ」と
背中を蹴飛ばされているような状態だからだ。
私は自他ともに認める
「ジュエラー(宝飾職人)」
でありたいと思って
これまで仕事をしてきた。
ダイヤモンドを扱うなら
4C(Cut, Color, Clarity, Carat)を
厳密に見極める。
どんなに手間がかかっても
エビデンスと確かな技術に基づいた
本物のクオリティをお客さまに届けること。
それが私の誇りであり、
プロとしての矜持だった。
ごまかしのない仕事を続けていたからこそ
お客さまからの信頼も厚く、
結果として自然と売上(数字)もついてきていた。
そんなある日、私の実績に目をつけた
他店の店長から声がかかった。
「うちの店舗を手伝ってほしい」と。
最初は週2日のヘルプだった。
だが、私がそこでもきっちり成果を出すと
店長は私のシフトをすべてその店舗へ
強制的に移してしまった。
仕事は仕事。
どこに行ってもプロとして
やるべきことをやるだけだ。
そう割り切って店頭に立ち始めた私だが
すぐにその店の「異様さ」に気づくことになる。
まず目についたのは店舗の衛生状態の悪さ。
そして、同僚たちの圧倒的なスキル不足。
何より耐え難かったのは
「客と過剰に馴れ合うことで
売り上げを伸ばす」同僚たちの姿だった。
プロとしての境界線(バウンダリー)を踏み越え
友達感覚の甘言でお客さまを囲い込み、
その場しのぎの数字を作る。
そして今の店長は店内の環境改善や
スタッフの技術向上には目もくれず、
私にこうせき立てるのだ。
「とにかく売り上げを伸ばして!」
「この石を高く売るのが
あなたの仕事でしょ!」
目の前にあるのは内包物だらけで
カットもガタガタ、
とても価値があるとは言えない粗悪な石。
そんなものをさも最高級の
ダイヤモンドであるかのように繕って
お客さまに売りつける?
……冗談じゃない。
私にはそんなペテン師のような真似はできない。
「顧客に最高のサービスを」
言葉にするのは簡単だ。
けれど、粗悪な商品を並べ、
店内の掃除もせず、技術の研鑽も怠り、
ただ高く売り抜けることだけを
求める現場のどこに
最高のサービスが存在するのだろう。
プロフェッショナルが
本気で腕を振るうためには
それを支える環境が必要だ。
整った照明、安全な設備、
そして互いに背中を預け合える職人たち。
それが何一つ用意されていない場所で
「数字を作れ」と叫ぶのは
プロへの要求ではなく、単なる搾取だ。
私は職人であって、詐欺師ではない。
自分の良心と技術を安売りしてまで
その場しのぎの数字に魂を売るつもりはない。
曇りきったガラス玉を
宝石だと偽って売りつけるくらいなら
私は何度でも言う。
「これはお客さまにお出しできる
品質ではありません」と。
