「可愛い顔さらしやがって、なかなかやるやないけ」

 凶悪な面相にお似合いの、右頬から顎にかけて走る引き攣れた刃物傷のある男が、女を睨みつけていた。

 男は、ごつい体格をひけらかすように、小さめのTシャツを着ている。

 どこで買ったのか、そのTシャツには、まるで刺青のような龍の絵柄がプリントされており、そのTシャツの続きのように、太い腕には、本物の刺青が彫られている。

 金のネックレスに金のブレスレット、両手の小指と薬指には、ヤクザ御用達の金の太い指輪をはめている。

 この男は、自称レスラーを名乗る、半グレ集団のボスだ。

 暴力に生きる者として、相手を威圧するために、精一杯ドスを利かせたつもりだろうが、悲しいかな、かすかに声が震えていた。

 いつもは凶暴な光を宿しているであろう目にも、わずかに怯えの色が浮かんでいる。

 ここは、大阪ミナミのアメ村から少し離れた路地裏で、深夜の二時ともなれば通る人もいない、半グレ集団の溜まり場だった。

 路上には、女を睨みつけている男に負けず劣らずの、まっとうな人種なら、絶対にお近づきになりたくない方々達が、十人ほど転がっていた。

 良い子はとっくに寝る時間だからといって寝ているわけでなく、酔っ払って、いい気もちで伸びているわけでもない。

 二人ほど、ビクビクと全身を痙攣させながら、弱々しい呻き声をあげているが、他の者は、まるで死体のようにピクリとも動かない。

 ある者は口から泡を吹き、ある者は白目を剥いて気絶していた。

「能書きはいいから、かかってくれば。それとも、逃げる? どうせ、こいつらと同じように弱いんだろうから、逃げても許してあげるわよ」

 男の眼光を退屈そうに受け流して、女が気怠げな口調で返した。

 トップモデルやハリウッド女優と言っても誰も疑わないような、とんでもなく素晴らしい容姿の、欧米系の女だ。

 身長は一六五センチくらいと、外人にしては少し小柄だが、Tシャツの胸はほどよく盛り上がり、くびれた腰に張りのあるヒップ。

 スラリと伸びた形の良い脚に、白いジーパンがぴったりとフィットしている。

まるで、ファッション雑誌から抜け出てきたような、見事に均整のとれた肢体をしている。

 深いエメラルドグリーンの大きな瞳。

 ほどよい高さで形の良い鼻。

 少し大きめの口に愛らしい唇。

 背中まである、ふわりと自然にカールした髪はあざやかなブロンドだ。

 美人といっても、近寄りがたいような冷たい印象の美人ではなく、男の言った通り、可愛らしい顔立ちをしている。

 一見して、男が守ってやりたくなるような小柄でキュートな女にそこまで言われて、男がキレた。