「よく言うわね。私たちの世界で、秘密を抱えていない者なんていないわよ」

 ターニャが苦々しげな顔をする。

 確かに、諜報機関に属しているような者は一癖も二癖もあり、秘密を抱えていない者などいやしないだろう。

「なんにしても、これで一件落着ね。ターニャ、決着はこの次会ったときにつけましょ」

 何事もなかったかのように、カレンが明るい口調で言う。

「サトル、東京見物に行くわよ」

 ターニャの返事を待つこともせず、悟に声をかけた。

 すでに、空は白みかけている。

「着替えもせんとか?」

「もちろん、着替えてからよ」

 悟を撃った人間はいなかった。

 事件が解決しても、カレンはすっきりしていない。

 しかし、いつか必ずまみえる日がくるに違いない。

 劉を倒したとはいえ、赤い金貨が潰れることはない。

 赤い金貨の組織はでかい。

 劉の代わりはいくらでもいるはずだ。

 そして、赤い金貨の暗躍はこれからも続くだろう。

 近いうちに、また絡むことになるはずだ。

 カレンは、そんな予感がしていた。

 いつの日か、悟を撃った奴に償いをさせるときが来る。

 そう信じて疑わない。

 そんなことをおくびにも出さず、カレンは明るく答えると、三人に軽く右手を上げて踵を返した。

「みなさん、お世話になりました」

 丁寧にお辞儀をして、悟がカレンの後を追う。

 去りゆく悟の後ろ姿を見送りながら、「一番謎なのは、あいつだな」桜井が独り言のように呟いた。

「まったくだ」

 ヒューストンが同意するように頷き、ターニャを見た。

 ターニャはただ黙って、悟の後姿を見つめている。

 その目は、獲物に忍び寄らんとする猛獣のように、爛々と光っていた。