長いコロナ禍を切り抜けられたのも、すべては常連客のおかげだ。

 俺は、小さな食堂を営んでいる。

 10人も入ればいっぱいという、定食屋だ。

 コロナ禍でも、来なくなった常連客はあまりいない。

 俺の店は、大阪の観光地の近くにある。

 コロナ禍が過ぎてから、またぞろインバウンドが増えてきた。

 それにつれ、俺の店の周りの店も、インバウンド向けに舵をきった。

 コロナ禍前まではインバウンド相手にあこぎな商売をやっていた店ばかりだ。

 そして、コロナ禍になってインバウンドが途絶えると、手の平を返したように、地元民に阿るように価格を下げた。

 そして、今、また価格を上げ、地元民なんかには目もくれず、ひたすらインバウンドで儲けようとしている。

 俺からすれば不思議だった。

 それが、商売人なのか。

 刹那的に金を儲けることを考えるのが商売人なのか。

 いや、違う。

 いつも贔屓にしてくれる人を大切にするのが、商売人なのではないか。

 俺は、そう思っている。

 刹那的な儲けなんてどうでもいい。

 いつも来てくれるお客さんが喜んでくれれば、それでいいのだ。