「マジかよ。人間技じゃねえな」

 桜井が、驚嘆の声をあげる。

「フン、まだ、なまってはいないようね」

 カレンに躱されたというのに、ターニャはどこか嬉しそうだ。

「当たり前よ。あなたにはわからないでしょうけど、愛の力って強いのよ。それにね、サトルの体に爆弾が埋め込まれていなくても、あなたの出方次第で、ここにいる全員が吹っ飛ぶのは事実よ。ねえ、サトル」

 カレンに応えて悟が頷いた。

「その通りや。ターニャ、これ、何やと思う?」

 右手に握ったものをターニャに突き出した。

「まさか、それを爆弾させるつもりっていうのじゃないでしょうね」

 ターニャがからかい気味に言ったが、悟は真面目な顔をして答えた。

「そのつもりやったで。こいつのリモコンスイッチや。押したら、みんなお陀仏や」

 そういって、左手に持ったカプセル爆弾が入っている袋を掲げてみせ、不敵な笑みを浮かべた。

 どうやらターニャは、まだ悟のことを見くびっているようだ。

「カレンだけを死なすわけにはいかへんからな。どうせ死ぬんやったら、みんなで仲良くあの世へ行こうや」

 悟の顔つきを見て、そこにいる全員が、悟が冗談で言っているのではないことを確信した。

「仕方ねえな。お前らの恋愛ごっこの巻き添えを食うのは御免だが、そいつを始末するために吹っ飛ぶんだったら、あきらめもつこうってもんだ。そんな物騒なもんが、赤い金貨やロシアに渡るくらいだったら、俺一人の命なんざ安いもんだぜ。いいぜ杉村、やっちまいな」

 桜井が不敵な顔をしてうそぶいた。

「この際、みんなで仲良く地獄に落ちるってのもいいかもね」

 カレンがヒューストンを見ながら言う。

 ヒューストンも観念したかのように、肩をすくめてみせた。

「お前ら、全員狂ってやがる。俺は、こんなところでくたばるなんて真っ平だ」

 突然、緒方が喚きながら走りだした。

「おい、待て」

 緒方を追いかけようとする桜井の足元に、銃弾が撃ち込まれた。

「雑魚はほっときなさい」

 鋭い口調でターニャが言う。

 桜井が舌打ちをして、ターニャを睨みつけた。

「どうする、ターニャ? このままじゃ埒があかないわよ」

 カレンがターニャに向かって言ったそのとき、廊下で銃声が響いた。