「お前の演技も大したもんだったぞ」
桜井が悟の肩を叩く。
「さて緒方、お前は本部に帰ってから、俺がとっくりと調べてやるから覚悟しておけ」
ドスの利いた声で、緒方を震え上がらせた。
「待ってくれ、桜井さん。俺は、こいつに脅されていただけなんです」
スコットを指差しながら、緒方が哀れな声を出した。
「何を言ってやがる。お前の話は全部聞いていたんだぜ。今更、どんな言い訳をしても無駄だ。国家の忠犬の俺が、とことん絞ってやるから覚悟しな」
皮肉な口調で、桜井が言う。
「言っておくがな、情報官殿に泣きつこうとしたって無駄だぜ。高柳情報官は、潔く罪を認めた上、責任を取って自決しちまったよ」
ヒューストンの前で、敢えて本当のことを言う必要もなかろうと思った桜井は、せめて最低限の面目を保つために、高柳が自決したことにした。
カレンは何も言わず、ただ口元を綻ばせただけだ。
それを聞いて驚いた緒方が目を見開いたが、直ぐにがっくりとうなだれた。
「スコット、お前は俺だ。覚悟しておけ」
ヒューストンがスコットに向かって厳しい口調で告げた。
その言葉が終わらぬうちに、冷たい声が聞こえた。
「やっと、茶番は終わったみたいね。あまり、長いこと待たせないでくれる」
皆が振り返ると、口元に酷薄な笑みを浮かべたターニャが、入り口の扉にもたれて立っていた。
その手には、短機関銃が握られている。
「ターニャやんか」
気さくな口調で、悟が声をかける。
「まったく、あなたには緊張感ってものがないの。せっかく私らしく登場したのに、気勢がそがれるじゃない。あんまり、私のイメージを壊さないでくれる」
悟の声を聞いて、酷薄な笑みを浮かべていたターニャが一転呆れ顔になり、それから調子が狂ったみたいで、今では苦笑を浮かべている。
不思議なことに、ターニャも悟に対しては冷酷になれないようだ。
「よく、ここがわかったわね」
ここへ来るまで尾行には気を遣っていたカレンは、絶対尾けられていないという自信があった。
それで、ターニャの出現に少し驚いていた。