一瞬、悟は撃たれたかと思い目を瞑った。

 が、そうではなかった。

 悟が目を開けると、スコットと緒方が左手で右腕を押さえていた。

 二人は何が起こったのかわからず、呆然とした顔をしている。

 スコットの目に、銃を構えて立っているカレンの姿が映った。

「お、お前…」

 スコットは、それ以上言葉が出なかった。

「聞いた? これで、全貌がわかったわね」

 カレンが大きな声で、誰にともなく言った。

「ああ、聞いたぜ。まったく、とんでもない奴らだな」

 苦々しげな顔をして桜井が入ってきた。

 後にはヒューストンが続いている。

「ヒューストン。生きていたのか? これは、一体、どうなっているんだ」

 スコットは驚くというより、事態が把握できずに戸惑っている。

「自分では頭がいいと言ってたけど、どうやら、それほどでもなかったようね」

 小馬鹿にしたように答えるカレンの腹部は、真っ赤に染まっている。

 しかしその声は、さきほどの瀕死の状態とは思えないほど、いつもの元気なカレンの声だ。

「タイミングどんぴしゃやな。一瞬、俺が撃たれたかと思ってヒヤッとしたわ」

 悟がスコットからビニール袋を奪い、カレンに微笑んだ。

「馬鹿ね。私が、愛する人を死なすわけがないでしょ」

「サトル。お前は、カレンを裏切ったんじゃ?」

 悟を指さし、スコットが絞り出すような声を出した。

「アホやな。俺が、愛する人を裏切るわけないやろ」

 悟が、カレンの口調を真似る。

「し、しかし、お前は、本気でカレンを撃ったじゃないか」

「そうせんと、お前は信用せんやろ。おかげで、調子こいてぺらぺら喋ってくれたもんな」

 悟の言い方が可笑しかったのか、カレンが喉を鳴らして笑った。

「おい、あいつは、本当にただの民間人なのか」

 桜井が、呆れたようにカレンに囁いた。

「そのはずなんだけど、私も、時々わからなくなるのよね」

 冗談とも本気ともつかぬ口調で、カレンが答える。

「奴を、我が組織に向かえ入れたいところだな」

ヒューストンは真顔だ。

「だめよ、サトルはこのままでいいの」

 カレンに睨まれて、ヒューストンが肩をすくめた。

「いい加減にしろ。一体、何がどうなっているんだ」

 スコットが苛立ちを露にして、声を荒げた。

 さきほどまでの勝ち誇った様子は微塵もなく、怒りと屈辱で顔を真っ赤に染めている。