「私はな、お前がエージェントとして活躍していた頃に、それとなく兄ということがわかるようにして、出世の糸口を掴もうとしていたんだ。その矢先に、こいつみたいなくだらん男にほれ込んだ挙句、カンパニーを抜けたりしやがって。今、私がカレンの兄だとばれてみろ、永遠に出世なんて望めやしないんだぞ」
よほどカレンが憎かったのか、スコットの顔は醜く歪み、罵る口調に憎悪が詰め込まれている。
「そやから、バレる前にカレンを殺そうとしたのか」
「そうさ。それに、いい加減ヒューストンに使われているのにも飽きたんでね、ここらで、私がヒューストンの代わりをしてもいいだろうと思ったのさ」
「それで、今回のことを企てたと」
「正確に言うと、ちょっと違うな。企てたのは赤い金貨だ。私は、それに乗っただけだよ」
「じゃあ、あんたも赤い金貨の一員か」
「そうだ。私がいい加減ヒューストンの下で働くのにうんざりしていたとき、組織からお誘いがあってな。だから私は、組織に入る手土産として爆弾を盗んだ」
「さっき俺が聞いたときは、違うと否定したよな」
悟はスコットを睨んだが、スコットは悟の視線など意にも介さず、「お前に、正直に言う必要もなかろう」と皮肉な口調で返して、乾いた笑い声を立てた。
「そうか」
悟は、スコットの言葉をさらりと流して、平然と言い放った。
「そんなことをして、ようばれんかったもんやな」
「言っただろう、私は頭がいいんだ。なにも直接手を下さなくても、方法はいくらでもあるんだ。キンバルという奴を騙して物を盗ませた。そいつに罪を被せて、最後には堂々と毒殺してやったがな。あのときのヒューストンの慌てぶりは面白かったぞ」
スコットがますます悦にいって哄笑する。
それにつられるように、緒方も下卑た笑い声をたてた。
「今回の件を、お前に依頼するようヒューストンに勧めたのは、この私だ。お前とヒューストンを始末するいい機会だと思ってな。お前たちは、まんまと私の手の中で踊らされたというわけだ。どうだ、頭がいいだろう」
勝ち誇ったように胸を張るスコットだったが、悟はそんなスコットを、薄汚いものを見るような目で見ていた。
「なんて、卑劣な奴なんや」
言葉にも、嫌悪感がありありと滲みでている。
「カレンを裏切ったお前に、そんなことを言う資格があるのかね」
そう言って、スコットがせせら笑った。
二人の会話が聞こえているのかいないのか、カレンは苦しそうに目を閉じている。