それは、突然の出来事だった。

 誰もが、予想さえしていなかった。

 前兆すらなく、太陽がいきなり燃え尽きた。

 消滅したわけではない。

 まさに、燃え尽きたという表現がぴったりで、燃え盛る炎がぴたりと止み、ただの黒い星になってしまった。

 そして、地球から昼がなくなった。

 ここ数年の異常な暑さは、環境破壊のせいではなく、燃え尽きる前の太陽が、高温を発していたと思える。

 科学者の誰ひとりとして、それに気付いた者はいなかった。

 気温がぐんぐん下がり、各地で氷点下になった。

 太陽がないと、作物は育たない。

 植物も光合成ができないので、みるみる酸素が希薄になった。

 酸素吸入器が飛ぶように売れたが、そんなに数があるわけではない。

 人々がどれだけ慌てようが、どうしょうもない。

 政府や科学者のせいにする人間もいたが、ただ不安のはけ口をそこに求めているに過ぎない。

 どれだけ慌てようが、人間の科学力ではどうしようもないのだ。

 今は、人類は二者択一に迫られている。

 凍えて死ぬか、酸欠で死ぬかだ。