「わかっとるわ。そんなこと言うわけないやろ。俺は、お前らの仲間になったんや、少しは信用せんかい」
心外だというように怒る悟に、スコットが苦笑しながら電話を渡した。
「カレンか? 俺や」
「サトル、元気だった」
今までの口調とは違って、うきうきとしたカレンの声がマイクから流れてきた。
スコットと緒方は、これから起こることを想像して笑いを噛み殺している。
「元気や。さっきはごめんな、カレン一人に行かせてもうて」
「いいのよ。それより、サトルが元に戻ってくれたようで嬉しいわ」
カレンは、本当に嬉しそうな声を出している。
「ああ、もう大丈夫や」
悟も、いつもの調子で答えた。
「もうすぐそっちへ行くから、いい子で待っているのよ」
「ああ、待ってるで。なあカレン、ひとつだけ頼みがあるんやけど」
「何?」
「昨日、カレンが俺にくれた本な、あれ持ってきてくれへんか。出かけるとき慌ててたから、持ってくるのを忘れてな。あれは役に立つから持っときたいねん。ほんま、ええもんくれたもんや。このお返しは絶対するからな。今度、カレンの大好きな寿司でも奢るわ」
「たかが本くらいで大袈裟ね。でも、お寿司は大歓迎よ。楽しみにしているわ」
明るい声で、カレンが笑った。
「まかしとき」
「じゃあ、待っててね」
弾んだ声で言って、カレンは電話を切った。
悟は、暫く握りしめた電話を眺めていたが、やがて深いため息をつくと、スコットに返した。
「なかなか役者じゃねえか」
悟は下卑た口調でからかう緒方を見もせず、「大阪人やからな」と、ぶっきらぼうに返した。
「うまくやってくれたが、しかし、本というのは何だね。そんなに大切なものなのか?」
スコットが興味深そうに訊いてきた。
「ああ、転職情報誌や。カレンを殺してもたら喫茶店は続けられへんからな。どこか、職を探さんとあかんやろ」
「お前、これが無事終わったら、一億貰えるんだぞ。それでも、まだ金が欲しいのか」
呆れたような緒方の言葉を受けて、「大阪人やからな」と、またもやぶっきらぼうに答えた。
スコットは笑みを浮かべて肩をすくめてみせたが、目は笑っていなかった。