「お、おまえまで…」

 これまで大人しいと思って、いいようにあしらってきた杉林にとって、良恵の反抗は衝撃的だった。

 動揺と屈辱で、杉林の頬がピクピクと痙攣している。

「お前ら、寄ってたかって、俺を悪もんにする気か。元はというたら、こいつが、俺の言うたことをやってなかったんが悪いんやろ」

 杉林が新八を指さしながら、半ばキレ気味に喚く。

 一歩前に出た健一を、涼子が手で制した。

「昨日の仕様変更は、杉林さんが勝手に決めたことでしょ。これまで上がっていなかった要望を、納期もお金の話もせずに引き受けてしまったそうですね」

「どこから、そんな話が出てくるんや」

 図星を突かれて、杉林がうろたえる。

「昨日、山中さんから電話があったんや」

 山中とは、健一のチームが携わっているプロジェクトの、相手方の担当者である。「なんや、連絡もなしに山中さんとこに顔を出したそうやな。そのとき、山中さんが冗談混じりに漏らした要望を、あんたは勢い込んで勝手に引き受けたそうやないか。そんで、山中さんが心配になって、俺に連絡してきたんや」

 今のプロジェクトは、健一と涼子が主体になって打ち合わせを行なっている。

 本来、プロジェクトリーダーの杉林が行なうべきなのだが、何かと理由をつけては、健一と涼子に押し付けたのだ。

 そのくせ、プライドだけは人一倍高い杉林は、社内にもお客にも一人前のリーダー面をしたがる。

 今回のことも、会社にいても暇だったので、大丈夫アピールをしようと思い立った杉林が、進捗状況の確認もしないで勝手に客先に出向いた。 

 健一と山中は常時連絡を取り合っているので、山中は常に状況を把握している。それに、杉林のこともよくわかっている。

 だから、連絡もなく急に来られても、山中にとっては迷惑なだけだった。

 それでも人の良い山中は、嫌な顔もせずに応対したのだが、杉林がそんな調子なので、仕事の話をしても噛み合わない。

 昨日も話の継穂がなく、半ば冗談交じりに、あそこはこうしておいた方が良かったとポロリと漏らした言葉に、杉林が過剰反応した。