「藤吉、帰ったぞ」
「あ~おお帰りなさいませ坂本様」
「おう藤吉、元気にしちょったか?いや腹ペコじゃけん、なんぞ食べさして~な。
おまん、また体が大きゅうなったのお~」
こんなやり取りが近江屋の玄関先から聞こえてきた。このころ龍馬はこ河原町の醤油商の母屋の二階を宿にしていた。藤吉とは龍馬の従僕である。
「よし、間違いない。彼だ、場所も間違いない。あとはこの場所をステートメモリーにセットして、明後日の 11月 15日に夕方にスリップしてこよう。敏治メモリー頼む」
「了解謙治。セット完了」
「いよいよだね!これで龍馬暗殺の謎が判明するね。ビデオに撮ってテレビ局に持って行ったら大スクープだよね」
「バカだなぁ~宅歩。そんなの誰も信じてくれないよ」
「いいや!それを信じさせるには一つだけ方法があるよ」
謙治が言った。三人はその方法が解っていた。ただ、それを公開する事が人類の歴史にとって良い事なのか悪い事なのか未だに結論を出せないでいる。その結論をだす前に未来へのタイムスリップを成功させる事が先決だった。三人はまた半日かけて来た道を忠実にマシンのある伏見に向かって歩き始めた。
「なあ、みんな知 ってるか?さっき龍馬の背中に何か箱みたいな物が布にくるまれてあったろ?あの中に何が入っていたと思う?」
謙治が言った。
「あ~先は長いよ腹ペコだ~竧まああれは今でいうショルダーバッグみたいなもんだよね?だから手ぬぐいとか大きなお握り弁当とか沢庵とかだろうな」
宅歩は空腹と歩き疲れで参った様子。
「頑張れよ、宅歩。まあそうなんだけど龍馬は歴史的に重要な物を入れているはずなんだよ、重要な物だから懐じゃなくて身体にしっかりと結びつけているはずなんだよ」「謙治、大金かな?」
敏治が目を耀かせながら答えた。
「いや!恐らく船中八策の書だよ、龍馬は夕顔丸という船の中でこれからの日本の八つの政策を考えたんだ」
「ああ、聞いたことがあるよ。総理大臣の名前が○○○と無記名になっていたのと中心人物の中に龍馬自身の名前が書いてなかったんだよな」
「そう!流石敏治!さて、じゃあ龍馬は何になるつもりだったか知ってるか?」
宅歩が立ち止まると空に向けて叫んだ。
「俺は世界の海援隊だ!!」
三人は笑いながら伏見に向けて走り始めた。
「お代官様、奴らが帰って来ました。あの三人です」
質屋の平蔵と代官の葛西清三郎がのれんの隙間から三人を見ていた。
「よし、あいわかった。あと一時(いっとき)したら町方を来させ三人をめしとる。平蔵、お前は三人が外に出ぬように見張っておれ」
葛西は平蔵にそう言い聞かせる自分の屋敷に戻って行った。三人はかなり体力を使い果たしたのか夕飯もとらずに眠ってしまった。(まあ途中で蕎麦やら団子やらかなり寄り道をしたが)それから一時半が過ぎて代官の指図で役人達が平蔵の質屋に押し寄せて来た。
「御用だ!御用だ」
まるで時代劇捕の捕り物だ。いや本当に捕り物なのである。
「こら!質屋の主人はいるか」
町方の十手がきらりと光る。
「へい、手前が主人の平蔵でございます」
「何やら二階に怪しい三人組がいるとかで代官所の命で引っ立てに参った。神妙に引き渡して貰うぜ。」
十手持ちと数人の岡っ引きがバタバタと二階にかけ上って行った。
「御用だ御用 御用」
岡っ引き達は泥のように眠っている三人を見て勢いを裏切られたせいが黙っている。誰かが
「こいつら死んでるぞ」
と言うと
「ふんにゃ~御用はありまふぇんよ~水戸黄門しゃん」
宅歩が ふっと上半身だけ起き上がって再び眠りに着いた。
「なんだこやつは!三人共お縄をかけて引っ立て」
ここから先は読者の想像にお任せしよう。あ~だのこ~だのギャーギャードタバタ出演者一同大変な騒ぎであった。
「なんで俺達がこんな目に合うんだ?わけを話せ!」
「何も悪い事はしてないぞ・・・訴えてやる」
「そうだそうだご飯出せ!大盛りだ!」
まあ読者にはそれぞれ誰が叫んだ「」なのかはもう想像がつくだろう。
翌日、三人は町奉行屋敷の中庭に連れて行かれ奉行直々に取り調べを受ける事になった。中庭には質屋の平蔵も地べたに座らされていた。三人はお縄をほどかれ平蔵の横に座らされた。回りには 10人程の刀と槍を持った警護が立っている。
「伏見南町奉行・宇津本改竄様御召し座~」
呼び声と共に奉行が現れた。
「あれ?遠山の金さんじゃないんだ」
宅歩が流石に三人にしか聞こえないような小さな声で呟いた。
「そこの者!面を上げい。謙造、敏造、宅助瀨お前達はその変わった風貌で町をウロウロと挙動不審と通達があった。しかも大金を持ち歩きふんどしも閉めずに何やら妙な腰巻きを締め、言葉も不振なり。よってこれより吟味をいたす。暫くは牢獄暮らしと覚悟せよ。何か申し立てがあらば聞こう」
奉行・宇津本改竄(うつもとかいざん)が低いが良く通る声で罪を告げた。すると隣に座っていた質屋の平蔵が
「恐れながらお奉行様に申し上げます。既にご承知の通りこの三名は私の母屋に住まわせており、私の亡くなった兄の子供達でございます。五年程前に舟が沖に流され長い間見知らね島で育ち、先日やっと行方が分かり私が引き取った次第にて、決して怪しい者達 ではございません。私は伏見南町の商人組合長でございます。この私が保証人となり、しっかりと修業させますので何卒お許しを揵」
平蔵が深々と頭を下げた。謙治は平蔵がニヤリと微笑んだのを見逃さなかった。
しかし三人が解き放たれたのは3日後の 11月 16日の昼過ぎの事だった。
流石に直ぐに解放する事は避けたのだろう、質屋の平蔵が三人の身柄を受け恐らく袖の下を渡したのであろう。平蔵は三人を質屋の居間に座らせると
「いやいや兎に角返して貰って良かった、あの奉行は金に弱いお人だからお前達も運が良かったんだよ。一人 10両三人で 30両で若いお前達を救いだしたんだ。まあ金を返せとは言わんが、またお前達の町の珍しい品を手に入れておくれ」
「うん!おじいさんのおかげで助かったよ」
宅歩が珍しく真面目な顔で平蔵に頭を下げている。
「平蔵さん、ホントに感謝します。さっそく明日町に帰り、また珍しい品を持って来ます。帰るまで楽しみに待っていて下さいね」
謙治が平蔵を安心させると三人は久しぶりに風呂に入れてもらい、たっぷりと夕食を食べさせてもらい二階に上がった。
「あ~参ったね、龍馬暗殺の日が過ぎてしまったね!ニュース速報もないから本当に暗殺されたのかわからないね」
敏治は畳に大の字になった。
「しかし、なんで暗殺の日に釈放してくれなかったのかなあ~、やっぱり歴史は変えられないのか・・・変えようとしたら必ず何かが起きるのかなあ~」
謙治も大の字になった。暫くして壁に寄っ掛かっていた宅歩がむっくりと立ち上がって「ねえ、なんで二人ともそんな事で悩んでんの?タイムマシンで昨日に戻ればいいじゃない」………暫く沈黙が続いた。だれともなく押し殺したような笑い声が聞こえて来た。そのうち「はははひひひふふふヘへへほほほ」とふざけた小さな笑い声、次の瞬間、三人は着物を来てマシンのある小屋に一目散に走って行った。・・・・・・・ 完
:::::エピローグ::::::
11月 15日に戻った三人は近江屋の二階の屋根裏に潜んでいた。実はこれで三回目、宅歩がくしゃみをしたり、腹の虫を鳴らしたりして一回目は龍馬に、二回目は中岡慎太郎にバレていた。それでもタイムマシンの長所は何度でも好きな時間にスリップできる、時空を制覇できるところだ。
その度に龍馬も慎太郎も屋根裏の事は覚えていない。結局、龍馬暗殺の真相はこうであった。読者だけに明かすことにしよう。
龍馬と陸援隊隊長の中岡慎太郎が話をしている。龍馬が舟中八策の説明をしていた。 20時 8分に下の扉を叩く音がした。
「坂本先生に面会の約束がある者だ」
六人の男達の一人が戸を開けた藤吉の口をふさいで腹に短刀を突いて静かに横たわらせた。六人は静かに階段を登り二階の襖を一気に開けた。先ずは先頭の二人がつかさず龍馬を襲い、最初の男が龍馬の眉間を二人目は右肩から切り付けた。三番目と四番目の男が慎太郎の腹と腕を切った。五番目の男は龍馬の腹をさし、最後の男は腹這いになっていり龍馬の背中を突き刺している。龍馬も慎太郎も刀は部屋の隅に並べて立て掛けていて、刀を手にはしたが抜く間もなかった。六人の男達に見覚えはなかった。
新撰組の羽織でもないし、土佐や長州の侍でもなさそうだ。屋根裏から覗いただけでは解らなかったし顔を見てもその人物が誰なのかも解らない。結局、歴史的にも六人が誰なのかも解らなかったように実際に三人が現場を見ても顔も名も知らないし、結局六人が誰だったのかわからなかったのだ。
文献では六人の素性は新撰組、紀州藩士、薩摩、土佐藩士があげられている。ただ、文献に顔写真があるわけでもない。だが謙治が六人の内の誰かが去り際に呟いたひと言を聞き漏らさなかった。
「龍馬よ!おまんは歴史上の偉人成るや、はたまた芝居のうまい芸人たるや」真相は謙治と六人の武士だけが知っていた。藤吉は事件の翌日、慎太郎は翌々日に息を引き取っている。つまりは六人はわざと生き証人を残したのだ。特に慎太郎は死ぬまでの二日間に生き証人として龍馬の死にざまを語っているのである。
謙治の推察だが龍馬は暗殺されたのではなく自分から暗殺されたように見せかけたのである。その推察が正か否かは五年後の大晦日に北海道のある場所にタイムスリップすれば判明する。大草原の中で畑を耕している男女が見える。女は背中に赤ん坊を背負い、男女の回りを小さな男の子が走り回っている。
「お龍、そろそろ晩飯にしようか」
「はい、龍馬さん。慎の助ごはんよ」
男は鍬を土にさすと、手ぬぐいで額の汗を拭きながら北の大地に沈みかける夕陽をじっと見つめていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



