もう10年近く前のことです。


東京で勤務していた頃、ある土曜の午後、新宿伊勢丹本店近くで

見慣れないコーヒーショップを見つけました。

コーヒー中毒の私はすぐ中に吸い込まれました。


メニューを見ると、舌を噛みそうな名前の商品が並んでいましたが、

普通のホットコーヒーを注文しました。

店内を見渡し、この店がアメリカの資本らしいことがすぐ理解できました。


ほどなく、伊勢丹の紙袋をたくさん両手に抱えた母と娘がやって来ました。

うらやましいことに思い通りの買い物を楽しんだようで、満足そうでした。

二人は、舌を噛みそうな名前の飲み物をごく自然に注文しました。


母親が、自分の飲み物を席に置こうとしたとき、うっかり荷物がカップに

命中し、見事に床に中身が飛び散りました。


すると、一人の女性店員がすぐさま飛んできて、母親の衣服・荷物に

被害がないか気遣った後、別の席に移動させ、素早く片づけ始めました。

もう一人の女性店員は、母親がこぼしたのと同じ飲み物を、テキパキと

作り始めました。

店員どうしは一切言葉を交わさず、アイコンタクトで事が進みました。


二人の客が別の席に腰を下ろしようやく落ち着いた頃、代わりの飲み物が

運ばれてきました。恐縮する母親に、二人の店員はにっこりと微笑みました。


その間、私はコーヒーをすすりながら、一部始終を観察していました。

店内が割と空いていたことを考慮しても、店員の仕事ぶりは見事でした。

しかも、彼女たちは、ただの一度も迷惑そうな表情を見せることは

ありませんでした。ただの一度も、です。


二人の客はきっとこの店のファンになるだろうと思いつつ、やがて私は

店を出ました。

店の名前が知りたくて、振り返って見ると、

「STARBUCKS COFFEE」と書いてありました。


それ以来、私は「重度のスタバ中毒患者」となったのです。


                                        【009】