私のマイミクシィであり、福島県在住の方から教えていただきました。
日記を転載させていただきます。拡散希望とのことです。

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南相馬在住の詩人の詩です

311以来、文学の力をこんなに感じ、感銘を受けたことはありません。
今日ご本人と電話で話しました。
あまり前に出ることを望まない方ですが、今回の転載は快く承諾してくださいました。
志のある方々、是非この詩を詩集を広めてください。
出版は2010年1月。
慧眼とはこのことを言うのでしょう。
できれば縦変換してください。


『北緯37度25分の風とカナリア』より「南風吹く日」


岸づたいに吹く
南からの風がここちよい
沖あいに波を待つサーファーたちの頭が見えかくれしている
福島県原町市北泉海岸
福島第一原子力発電所から北へ二十五キロ
チェルノブイリ事故直後に住民十三万五千人が避難したエリアの内側

たとえば
一九七八年六月
福島第一原子力発電所から北へ八キロ
福島県双葉郡浪江町南棚塩
舛倉隆さん宅の庭に咲くムラサキツユクサの花びらにピンク色の斑点があらわれた
けれど
原発操業との有意性は認められないとされた

たとえば
一九八〇年一月報告
福島第一原子力発電所一号炉南放水口から八百メートル
海岸土砂 ホッキ貝 オカメブンブクからコバルト60を検出

たとえば
一九八〇年六月採取
福島第一原子力発電所から北へ八キロ
福島県双葉郡浪江町幾世橋
小学校校庭の空気中からコバルト60を検出

たとえば
一九八八年九月
福島第一原子力発電所から北へ二十五キロ
福島県原町市栄町
わたしの頭髪や体毛がいっきに抜け落ちた
いちどの洗髪でごはん茶碗ひとつ分もの頭髪が抜け落ちた
むろん
原発操業との有意性が認められることはないだろう
ないだろうがしかし

南からの風がここちよい
波間にただようサーファーたちのはるか沖
二艘のフェリーが左右からゆっくり近づき遠ざかる
気の遠くなる時間が視える
世界の音は絶え
すべて世はこともなし
あるいは
来るべきものをわれわれは視ているか


一九七八年十一月二日
チェルノブイリ事故の八年まえ
福島第一原子力発電所三号炉
圧力容器の水圧試験中に制御棒五本脱落
日本最初の臨界状態が七時間三十分もつづく
東京電力は二十九年を経た二〇〇七年三月に事故の隠蔽をようやく
認める

あるいは
一九八四年十月二十一日
福島第一原子力発電所二号炉
原子炉の圧力負荷試験中に臨界状態のため緊急停止
東京電力は二十三年を経た二〇〇七年三月に事故の隠蔽をようやく
認める

制御棒脱落事故はほかにも
一九七九年二月十二日 福島第一原子力発電所五号炉
一九八〇年九月十日 福島第一原子力発電所二号炉
一九九三年六月十五日 福島第二原子力発電所三号炉
一九九八年二月二十二日 福島第一原子力発電所四号炉
などなど二〇〇七年三月まで隠蔽ののち
福島第一原子力発電所から南南西へはるか二百キロ余
東京都千代田区大手町
経団連ビル内の電気事業連合会ではじめてあかす

二〇〇七年十一月
福島第一原子力発電所から北へ二十五キロ
福島県南相馬市北泉海岸
サーファーの姿もフェリーの影もない
世界の音は絶え
南からの風が肌にまとう
われわれが視ているものはなにか