印度に着いたレイトン達はジープに乗り込み、2時間掛けてアシュ・ラーの遺跡に向かった。
道はロンドンのように整備されておらず、デコボコ道で頭をぶつけないように気を配りながら道を走る。
風は少し熱気があり、窓を開けても涼しくなる事は無かった。
「話には聞いていたが・・・」
「はは、相当なもんだろう?」
「この熱気の中で調査をしているのは大した事だよ」
「土地には土地なりの対処法があるものだよ。兎に角、熱を身体から放出させてしまえば良いだけだ。ただ、夜は相当冷え込むから」
「ああ。気を付けるよ」
遺跡に着いたが・・・辺りを見回しても、誰一人居なかった。
「ニック?是は・・・」
「あぁ!」
「如何したんだい?」
「・・・今日は「安息日」だ・・・。金曜日だったか・・・」
ニコールは天を仰いだ。
「安息日?アシュ・ラーには安息日もあるのかい?」
「ああ。余り頻繁ではないが、この辺もイギリスと貿易していた記録がある」
「ふむ。其れで安息日を設けている訳か」
「この地はきちんとした暦を設けてはいなかったんだ。月を見て大まかな月日しか判らなかった為、休日も特には無かったんだ。其れを見たある宣教師が暦の作り方を教え、同時に安息日も作った・・・って所だな」
頭を掻きながらニコールは発掘されたであろう数m掘り下げられ、シートの掛かった土の上に降りた。
「あら、ニコールさん!お戻りになったんですか?」
少し離れた高台から一人の女性が声を掛けてきた。
「ああ!ニフカ!今帰ったばかりだ!」
にこやかに手を振りながら、ニコールはそのニフカと云う女性の元へ走った。
少し話した後、レイトンを呼び寄せた。
「エリック、彼女はニフカと云って、この調査のサポートをしてくれている人だ」
「はじめまして。私はエルシャール・レイトンと申します」
「ああ!ニコールさんから話は常々伺っております!私はニフカ・ラターシャと申します。お逢い出来て光栄です」
「此方こそ」
微笑む二人をニコールは嬉しそうに見ていた。
其れは自慢の友人を紹介出来たからか、其れともニフカを単純にレイトンを引き合わせたかったのか・・・。
「うん?どうしたんだい?ニック」
「あ、いや・・・別に」
「ニコールさんが居ない間に、かなり進みましたよ、発掘」
「そう。・・・で、何かあったのかい?」
「ええ。とんでもない事が」
「とんでもない事?」
ニフカは徐にシートを捲って見せた。
「!是・・・は・・・!!」
目の前に広がった光景。
其れは緑色の棺の周りに、所謂「ダビデの星」と呼ばれる三角形を二つ重ねた図のように、そして規則正しく例の石が並べられていた。
「何かの儀式でも行われたのだろうか」
「地質が変わってはいなかったので、歴史が他の場所とずれていると云う事は無いかと思われます」
「と、云う事は、後の時代にこの棺や石が入れられた可能性は・・・」
「略ゼロ、と云う事か」
「しかしアシュ・ラーの歴史書で、こんな模様を記した記録は見た事が無いな・・・」
「ふむ、確かに。しかし緑の棺はこの時代では王族によく使われていた」
「地質・・・もう一度調べてみましょうか?」
「地層だけで判断した訳じゃ無かったのに、掘れば掘る程訳が判らなくなる」
そう云うと、ニコールは側に設置してあったテントに駆け込んだ。
「ニフカさん、地質は何処で調べているんですか?」
「私が、今ニコールさんが飛び込んだテントの隣のテントで調べています」
「地質学を学んでらっしゃるんですか?」
「はい。考古学には必要不可欠かと」
「それならニックも、安心して現場を離れる事が出来た訳だ」
「そんな・・・。私程度の知識じゃ、ニコールさんの力になど・・・」
レイトンはそっと、ニフカの肩に手を置いた。
「大丈夫。きっと心強く思っている筈だよ、ニックは」
そっと微笑むと、足元の土を指で触ってみた。
「!」
「どうかしましたか?レイトンさん」
「地質が違う」
「え?」
「時代は確かにアシュ・ラーの時代のものかもしれないが、この赤土は・・・アシュ・ラーの、この辺りの土では無いかもしれない」
「そん・・・な・・・」
「前にシュレーダー・・・私の恩師の文献を読んだものの中には、この辺りの土地は黒土の比率が高いと書かれてあった。しかしこの土は粘土質の赤土。もしかしたら、誰かが意図的にこの辺り一帯の土を入れ替えたのかもしれない」
「誰が・・・何の為に・・・」
「其れはまだ調べてみないと判らない。しかし、此処で誰か・・・否、大きな組織のようなものが・・・」
うむ、とレイトンが考え始めたその時だった。
「エリック!!」
「どうした、ニック!」
「文献が・・・シュレーダー先生の文献が総て無くなっていて、おかしなメモが!」
駆け寄るニコールからレイトンが受け取ったものは、ひどく古びた古代文字で書かれた小さな紙切れだった。
「所々擦れているな。・・・読めるだろうか」
「貸して下さい」
ニフカはそっとその紙切れを受け取ると、必死に文字を読み始めた。
「この地に撒かれた悪しき血は・・・洗い流さなければならない・・・。悪しき種の芽が・・・息吹く・・・前に・・・」
「撒かれた悪しき血、そして悪しき種・・・。一体何の事を意味するんだろうか」
「多分、古の物語が関係しているのではないでしょうか」
「アシュ・ラー滅亡の、あの話だ。ロンドンのエリックの部屋で話した」
「ふむ。と、すると・・・是はどちらの事を意味するのだろうか」
「突如現れた熱弁者か、審判を下した神なのか・・・」
「ニック、この遺跡調査は永くなるかもしれない」
「ああ。全貌を見ない限り、僕もこの調査を辞めるつもりはないよ。喩え危ない橋を渡るとしても。だから・・・ニフカ。急で悪いが・・・」
「私も残ります。他の隊員には離れてもらっても、私もこの奇妙な出来事の行く末が知りたいです」
「好奇心を持つ事は良い事だが、女性を危険な目に合わせたくはないんだ」
二人はニフカを見詰めて云った。
「英国紳士としては、ね」
優しく見詰める瞳に、ニフカは縦に首を振る事しか出来なかった。
