この記事は前回の続きなので、見ていない方は前編からご覧ください。
後編では新たなキャストが登場します。
オナプリストン(以下OP)です。
P4のアンタゴニストですね。
本論文では、
黄体顆粒膜細胞に対してhCG、OP、そしてその両方を作用させるとどうなるか
がハイライトになっています。
さっさと結論を出しましょう。
・まずはhCGを作用させたとき
前編でも載せましたが、細胞の生存性が上昇しています。
・続いてOPを作用させたとき
高濃度を作用させると、細胞の生存性は低下しています。
・最後に両方を作用させたとき
上昇させるものと低下させるものを混ぜた場合、どうなるんでしょうか?
それぞれの作用が打ち消し合って、変わらないのでしょうか?
その答えがこちらです。
正解は恐ろしく低下するでした。
それぞれに濃度設定が必要なので、上の2つのグラフと違って折れ線です。
hCGは1IU/mlでプラトーに達し、100IU/mlでも効果は変わりません。
そこにOPの濃度が上がれば上がるほど、細胞の生存性が低下していきます。
OP単独で投与するより遥かに落ち幅が大きいですね。
<アポトーシスの誘導>
さらにまた新しいキャストが登場します。
その名もカスパーゼ3(以下CASP3)です。
アポトーシスを誘導する酵素ですね。
切断型カスパーゼ3(Cleaved CASP3)という形になって、活性を得ます。
こいつが増えていれば増えているほど、アポトーシスが起こっているということです。
さきほどの3つのケースでCASP3はどうなっているのでしょうか?
ウェスタンブロット法で確かめたのが↓こちらの図です。
hCG+OPでむちゃくちゃ濃く出てますね。
ここで考えられる仮説は、
本来、黄体顆粒膜細胞にはP4のレセプターがあり、自身が放出したP4を感知できる
→OPによってそれが感知できなくなると、hCGがCASP3を誘導する
というものです。
<多量のP4でOPの作用を凌駕したら?>
アンタゴニストとは、本来結合するべき物質の代わりにレセプターに結合し、その効果を阻害するというものです。
言ってみれば椅子取りゲームですよね。
本来椅子に座るべきP4の席に、OPが勝手に座っちゃうわけです。
ということは、P4をもっとたくさん混ぜれば、座れるP4も多くなり、本来の効果を取り戻すのではないか?
と思えるわけです。
それを確かめたのが↓こちら。
右2つを比較すると、まさにその通りになっていますね。
<初期流産では同じような現象が起こっている?>
本論文ではわざわざOPを使いましたが、要は
P4が黄体顆粒膜細胞に感知されないと、hCGがCASP3を誘導する
ということです。
P4は黄体顆粒膜細胞が産生する物質ですよね。
つまり、黄体の出来が悪くてP4の産生がうまくいっていないと、たとえ着床してもhCGがそれを終わらせてしまうということです。
なんてことをするんだ!
と言いたくなりますが、これも生存戦略なのかもしれません。
このままか細く生きながらえても、いずれ流産になってしまうなら、いっそのこと早めに終わらせて次に向かうべきである
と。
そうプログラミングされているのかもしれません。
しかし、今や黄体補充できる時代ですから、やはり妊娠がわかったら早めに受診して黄体機能を評価すべきと言えそうですね。
か細く消えそうな黄体でも、hCGがアポトーシスのスイッチを入れる前に黄体補充できれば、間に合うかもしれませんからね。
ということで、今回の論文は以上です。