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22歳の女性。未婚、未経妊。3ヶ月前から軽度の下腹部痛があり来院した。月経は28日型、整。左下腹部に軟らかい腫瘤を触れる。双合診で右付属器は鶏卵大、左付属器は手拳大に腫大している。CA125 33U/ml(基準35以下)、CA19-9 45U/ml(基準37以下)。骨盤部MRIのT1強調像および脂肪抑制T1強調像を次に示す。

 

この患者の治療で適切なのはどれか。

a.GnRHアゴニスト投与 b.腫瘍穿刺 c.両側卵巣楔状切除術 d.両側卵巣嚢腫切除術 e.両側付属器摘出術

 

<今回の要点>

①卵巣皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)は、脂肪や毛髪で構成されている

②MRIの脂肪抑制像では、脂肪部分は低信号になる

③卵巣腫瘍が捻転した場合でも、捻転の程度によって痛みの程度が異なり、元に戻ることもある

 

・MRI画像

何といっても脂肪抑制T1強調像で嚢胞内部が一部低信号になっていることが診断の決め手です。

脂肪抑制強調像とは、その名の通り、脂肪を含む部分が抑制される(低信号になる)像です。

この嚢胞は、脂肪と水が分離しているようですね。

そして、なにやら丸い塊がありますが、これは髪の毛の塊(hair ball)ですね。

 

数ある卵巣腫瘍の中でも、脂肪を主成分とするのは皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫)だけです。

hair ballは必ずしも全例にあるわけではありませんが、かなりの頻度で認めます。

 

髪の毛とか歯とか入ってるのでグロテスクな見た目ですが、良性腫瘍です。

 

 

・CA125 33U/ml(基準35以下)、CA19-9 45U/ml(基準37以下)

腫瘍マーカーはCA19-9が軽度高値を示すのが特徴ですが、情報としてはおまけみたいなもんです。

 

 

・3ヶ月前から軽度の下腹部痛

前回も書きましたが、卵巣腫瘍は良性にしろ悪性にしろ、存在するだけでは痛くありません。

痛いのは捻転した時です。

3ヶ月間来院しなかったことと、痛みが軽度であったことを合わせて考えると、おそらく捻転度は180°で、捻じれては戻りを繰り返していたのでしょう。360°捻じれてしまったら、もう戻らないと思われます。そうなると、激痛で来院→緊急手術という流れですね。

 

 

さて、では選択肢を見てみましょう。

 

この患者の治療で適切なのはどれか。

a.GnRHアゴニスト投与 b.腫瘍穿刺 c.両側卵巣楔状切除術 d.両側卵巣嚢腫切除術 e.両側付属器摘出術

 

これは前回と同じですね。

22歳、未妊、未経産ということで、卵巣は絶対に残さなくてはいけません。

まあ、片方残ってれば妊娠は可能なんですが、確率が下がりますからね。

ということで、正解はdです。

 

その他の選択肢はほぼ前回と同じですが、c.両側卵巣楔状切除術だけはなかったので、コメントしておきましょう。

卵巣に楔を打つという治療ですが、これはPCOSに対する治療ですね。

腹腔鏡下に、電気メスで卵巣にたくさん穴をあけるというものですが、これを行うとPCOSの排卵障害に効果があります。

ただ、どういう機序で排卵が促進されるのかは明らかではありません。

 

p.s. 腫瘍編は今回で終了です。次回からは、いよいよ産婦人科の真骨頂、周産期に入ります。何といっても、まずは正常分娩を知らないと話にならないので、しばらくは正常分娩に関する問題を扱います。

 

(次回の問題)

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30歳の初産婦。妊娠40週5日。10分間の下腹部緊満を主訴に来院した。これまでの妊娠経過に異常を認めなかった。脈拍72/分、整。血圧124/64mmHg。内診で先進部は小泉門で母体の右後方に触れる。子宮口4cm開大、展退度80%、児頭下降度+1、子宮口位置は中央、硬さは軟である。未破水である。尿所見:蛋白(-)、糖(-)。ドプラ聴診器による胎児心拍数は150/分である。

次に行うのはどれか。

a.導尿 b.外陰消毒 c.心電図検査 d.分娩監視装置装着 e.パルスオキシメーター装着