26歳の女性。未経妊。3か月前からの性交時出血を主訴に来院した。月経周期は28日型、整。内診で帯下は白色、子宮は鶏卵大で可動性は良好である。経腟超音波検査で子宮と卵巣に異常を認めない。子宮頸部の細胞診Papanicolaou染色標本を次に示す。

対応として適切なのはどれか。

a.子宮内膜組織診 b.コルポスコピー c.腟分泌物培養検査 

d.低用量経口避妊薬の投与 e.子宮頸部レーザー蒸散術

 

正解:b

 

<今回の要点>

①子宮頸部細胞診で異常を認めた場合、組織診が必要である

②HPVは基底細胞に寄生し、その細胞は異形成あるいは癌へと変化する

③病変は基底層→表層の方向に進行する

④病変の進行によってCIN1~3と分類され、治療方針が変わる

 

N/C比の増大した細胞がゴロゴロと並んでいますね。

HSIL相当の像でしょうか。

 

となると、次にすることは組織診ですので、正解はbになります。

概ねライトグリーンに染まっているようなので、傍基底細胞が多く採取されていると思われます。

 

ここまでは前回の記事を読んでもらえれば理解できると思います。

では、今回はその次のステップ、組織診について掘り下げようと思います。

 

<組織診の目的>

細胞診では、細胞レベルでの異型は分かりますが、それがどの程度の範囲で進行しているかは分かりません。

それを確かめるのが組織診です。

 

コルポスコープで見ながら、専用の器具で病変部分をバチン!と生検します。

 

病理検査の結果は大きく、①正常、②異形成、③癌、の3つに分かれます。

②③を総称して英語でcervical intraepithelial neoplasia(CIN)と表現します。

直訳すると、「子宮頸部の」「上皮内の」「悪性新生物」ですね。

異形成はdysplasia、癌はcarcinomaで、両方まとめてneoplasiaです。

※ちなみに肉腫はsarcomaで、carcinomaとsarcomaを合わせてcancer(がん)ですね。

 

そして、CINはさらに軽度異形成中等度異形成高度異形成の3段階に分かれ、CIN1/2/3と表記します。

何をもって分けるかというと、子宮頸部の重層扁平上皮のうち、どの程度まで病変が占めているか、です。

 

下1/3までであればCIN1

2/3までであればCIN2

全層に達していればCIN3

 

というわけです。

(病理画像は日本病理学会のサイトで見れます。)

そして、CIN3はさらに、高度異形成(severe dysplasia)上皮内癌(CIS:carcinoma in situ)に分かれます。

全層に及んでいたとしても、細胞レベルで癌の判定になる場合と、そこまでは至らない場合があるからです。

※CINとCISは、略語としては似ていますが、前者はcervical intraepithelial neoplasia、後者はcarcinoma in situなので、CもIも違う単語です。

 

また、上図に描いてある通り、細胞診の結果で組織診の結果もだいたい想定できます。

LSILであればCIN1、HSILであればCIN2~3であることが多いです。

 

上皮内癌(CIS)の診断がついて初めて「子宮頸癌」であり、それまでは「子宮頸部異形成」です。

 

「上皮」とは表層から基底膜までを指すので、上皮内癌とはその範囲内に収まった癌ということです。

この時点では、癌とはいえ、まだかなりの早期であり、進行期分類としてはstage0となります。

そして、基底膜を越えて浸潤したものを浸潤癌(invasive cancer)といい、ここからstage1です。

 

<HPVが感染するのは基底細胞>

さて、本題とは外れますが、こんな疑問を感じませんか?

「HPVには性交渉で感染するのに、

なぜ表層から下がっていくんじゃなくて深層から上がっていくのだろう?」と。

 

その答えは、「重層扁平上皮の中で細胞分裂するのは基底細胞だけだから」です。

 

基底膜直上の一層のみが分裂能を有しており、新しい細胞が分裂したら、その前に分裂した細胞は上に押しやられます。

その過程で細胞形態が変化していくのです。

 

ウイルスは、細胞内に寄生し、細胞分裂の際に自分の遺伝情報を複製させることで増殖します。

ですから、分裂しない細胞に寄生しても仕方ないわけです。

そこで、分裂能を有する基底細胞に寄生し、その分裂とともに増殖していきます。

だから深層から表層なのです。

 

※HPVの動きについては、YouTubeに分かりやすい動画があるので、リンクを貼っておきます。

Nucleus Medical Mediaというサイトで、素晴らしいアニメーションがたくさんあるので、今後も紹介していきます。

 

<CIN1/2の治療方針>

そして、CIN1やCIN2が必ずしもCISに進行するわけではありません。

基底細胞付近は免疫細胞がパトロールしているので、異型細胞の増殖より速く駆逐が進めば、正常化します。

CIN1がCISまで進行する確率は約3%、CIN2でも10%程度です。

ですので、CIN1/2の段階であれば、基本的に治療は不要で、それ以上進展しないかのフォローアップとなります。

 

<CIN3の治療方針>

ここまでくると外科的治療が必要になってきます。

代表的な治療方法としては、円錐切除術レーザー蒸散術が挙げられます。

 

・円錐切除術

↓円錐切除術は、その名の通り、円錐形に切除するという手術です。

この手術は検査の意味合いが強く、

円錐形に切除した断端に病変が及んでいるか、その手前で止まっているかを確かめることができます。

もし断端に病変が及んでいない(断端陰性)としたら、それ以上の治療は必要ないし、

断端に病変が及んでいる(断端陽性)としたら、改めて子宮全摘をする、

という判断が可能です。

 

ただし、悪性腫瘍の進展は浸潤だけではなく転移もありますから、

仮に断端陰性であっても、血管内に癌細胞が入っている(脈管侵襲)のが確認できたら、やはり子宮全摘が必要です。

 

・レーザー蒸散術

レーザー蒸散術は病変を焼き尽くすという治療ですから、標本を摘出することができません。

故に、どこまで病変があったのかが分からなくなってしまいます。

ですので、先に組織診をして、基底層以下まで浸潤していないことの確認が必須となります。

 

 

 

さて、では最後に他の選択肢にもコメントしましょう。

a.子宮内膜組織診本問は子宮頸部の話をしているので、子宮内膜は関係ありませんね。

c.腟分泌物培養検査これは細菌培養の話ですね。本問はHPV感染によるものなので、PCR法でDNA増幅という選択肢ならば正解です。

d.低用量経口避妊薬の投与子宮頸癌や異形成が経口避妊薬で治るなどということはありません。まったく無関係です。

e.子宮頸部レーザー蒸散術結果的にここに至る可能性はありますが、浸潤の程度が評価できていないので、この時点ではレーザーの選択はできません。

 

次回は「子宮頸癌①」です。

(次回の問題)

106I51

32歳の女性。不正性器出血を主訴に来院した。6ヶ月前から、性交後の出血と月経時以外の出血とがあった。初経13歳。月経周期は28日型、整。身長165cm、体重54kg。体温37.2℃。内診所見上、分泌物は血性で少量であり、子宮は前傾前屈で正常大である。両側付属器とDouglas窩とに異常を認めない。血液所見:赤血球305万、Hb10.7g/dl、Ht29%、白血球8800、血小板24万。酢酸加工後のコルポスコピーの写真を次に示す。

次に行う検査として適切なのはどれか。

a.子宮鏡検査 b.子宮頸部組織診 c.血中CA125測定 d.腟分泌物培養検査 e.HPV検査