成人女性の骨盤内解剖所見で正しいのはどれか。2つ選べ。
a.子宮動脈は仙骨子宮靭帯の中を通る。
b.子宮動脈は内腸骨動脈から分岐する。
c.卵管間質部の長さは4~5cmである。
d.卵管壁は内膜と外膜の2層からなる。
e.卵巣動静脈は骨盤漏斗靭帯の中を走る。
正解:b,e
この問題は非常に正答率が低いですが、基本的かつ知っておくべき問題です。
まず正解はbとeです。これは他の選択肢を見なくても正解と分からなくてはいけません。というか、この問題に関してはa,b,eのみ分かればよいです。c,dはちょっと細かいのでいいでしょう。
a,b:子宮動脈は左右の内腸骨動脈から分岐し、子宮を挟むようにして入ってきます。このときに通過するのが基靭帯です。
ですので、仙骨子宮靭帯ではなく基靭帯の中を通ります。
基靭帯は、「靭帯」という言葉の持つイメージとは若干異なるものです。
そもそも靭帯とは、「強靭な結合組織の短い束で、骨と骨を繋ぎ関節を形作る(Wikipedia調べ)」ものであって、確固たる構造を有していますが、基靭帯はパッと見で分かるような硬い構造物ではありません。
「子宮と骨盤の間の結合織」という方がしっくりきます。
他の子宮支持靭帯もことごとく子宮から起始しているので、骨と骨の間をつなぐ組織ではありません。
「じゃあ靭帯じゃないじゃん」と言いたくなりますが、そこはそういうもんだと受け入れましょう。
子宮動静脈は内腸骨動静脈から分岐し、子宮に近付くにつれて枝分かれしています。
そんな細い血管をむき出しにするわけにはいかないので、疎な結合織でゆるく包んで保護する必要があります。
それが基靭帯というわけです。
つまり、「基靭帯の中を子宮動静脈が通過している」というより、
「子宮動静脈を包んで保護している結合織一帯のことを基靭帯と呼ぶ」
と言った方がイメージがわくかもしれません。
下のイラストで走行している血管が子宮動脈で、山なりの空間を通過していますが、ここが基靭帯です。
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、横から見た図も入れておきます。
e:卵巣動静脈は卵巣と卵管を栄養しながら子宮動静脈と合流します。
卵巣動静脈も子宮動静脈と同様、むき出しで走行しているわけではなく、子宮広間膜という膜で覆われています。
そして、卵管には卵管枝を、卵巣には卵巣枝を出しながら走行するわけですが、前者を包む子宮広間膜を卵管間膜、後者を包む子宮広間膜を卵巣間膜と呼びます。
骨盤漏斗靭帯は卵管枝や卵巣枝を出す前の卵巣動静脈と、それを包む子宮広間膜をひとくくりにして呼んだものです。
基靭帯と同様、硬い構造物ではありません。
というか、ほぼ血管そのものです。
骨盤漏斗靭帯と対をなす存在として認識されやすいのが卵巣固有靭帯です。
「卵巣は骨盤との間の骨盤漏斗靭帯と、子宮との間の卵巣固有靭帯によってハンモックのように支持されている。」というように言われるのですが、これは非常に誤解を招きやすい表現だと思います。
確かに正しいのですが、何となくこの表現だと、骨盤漏斗靭帯と卵巣固有靭帯は質的に同じような存在だと思ってしまいがちです。
しかし、実際は違います。
骨盤漏斗靭帯の実体は血管(卵巣動静脈)であるのに対し、卵巣固有靭帯の実体は索状の硬い構造物であり、まさに靭帯のイメージに近いものです。
卵巣動静脈は卵巣と卵管に栄養血管を出しながら子宮の方向に向かい、卵巣固有靭帯の近傍を通過して子宮動静脈と合流します。
ですので、「卵巣動静脈は卵巣固有靭帯の中を走行する。」という選択肢があった場合は×ということになります。