紅麹が可視化するもの② | ブロッギン・エッセイ~自由への散策~

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド,ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば,水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬編『証言 水俣病』)

 前回記事では,機能性表示食品制度をスタートさせたアベノミクスの成長戦略が実は人体実験的な性格を帯びた政策であることを指摘したわけだけど,では,なぜこんな恐ろしい政策が実行に移されたのか。それは日本の国家が,環境汚染や有害食品から国民の命や健康を守ることよりも,経済成長という資本の論理を優先したからにほかならない。このことも前回指摘した。だが,この国で議会制民主主義や議院内閣制といった民主主義的な仕組みがちゃんと機能していれば,そのような非人間的な政策や資本の暴走はチェックされて,実際に行われることはなかったはずである。にもかかわらず,人体実験的な政策がまかり通り,それは今も続いていて,私たちの生活と生命を脅かしている。つまり,アベノミクスをチェックする体制が完全に機能不全に陥ってしまっていたことが問題なのである。それはひとえに安倍政権の性格規定に関わる。

 

 安倍政権の約8年で権力の抑制がほとんど効かなくなったと言ってよいだろう。周知の通り,安倍政権下で,特定秘密保護法,集団的自衛権行使容認,安保法,「共謀罪」など,国民の多くが反対する法案が強引な手法で次々と成立した。そういった強権的な姿勢は,アベノミクスと呼ばれる経済政策の決定過程でも見て取れる。その点は,官僚たちのアベノミクス――異形の経済政策はいかに作られたか (岩波新書) がアベノミクスの形成過程を丹念な取材に基づいて詳らかにしていて興味深い

 

 規制緩和色を色濃く打ち出した成長戦略(第三の矢)では,消費者団体や弁護士f団体の反対を押し切って機能性表示を解禁した。健康被害が出るまで,医学的根拠がないにもかかわらず機能性表示食品は安全で健康に良いと信じ込まされ,摂取させられる。そして,健康被害や死者が出て初めて,それが危うい食品だと気づかされる。まさにこれは人体実験であろう。アベノミクスの成長戦略(=規制緩和)による被害者はこれからも様々な分野で出てくるに違いない。

 

 前回も書いたが,そもそもアベノミクスの成長戦略は,「世界でいちばん企業が活躍しやすい国を目指す」という悪魔の囁きで始まった。要するにこれは,日本を強欲資本のやりたい放題の国にするという宣言にほかならない。資本は利潤を拡大するために強欲に何をやっても許されるわけだから,当然のことながら環境汚染や公害,食品による健康被害など,さまざまな問題が出てくる。アベノミクス成長戦略の目玉の一つ「国家戦略特区」は,人体実験場のことだったわけである。

 

 今日私が言いたいのは,アベノミクスの総まとめというか総括である。すなわち安倍政権はアベノミクスとよばれる経済政策によって,日本経済を大資本の独壇場にしようとした。つまりアベノミクスは,マルクス経済学が言うところの

 「国家独占資本主義

を目指したわけである。国家独占資本主義とは,要するに国家権力と独占資本が密接に結びついた資本主義体制にほかならない。この体制の下では,資本は独占利潤を拡大していくと同時に,国家は国民支配を強め,独裁色を色濃くしていく。国家独占資本主義の下で民主主義は機能不全に陥り,権力への抑制が利かなくなった。

 

 例えば昨今の春闘を見ると,国家と資本が結託した「官製春闘」であることがよくわかる。アベノミクスでトリクルダウンは起こらずに実質賃金がなかなか上がらない中で,安倍は「3%賃上げ」要請という計画経済のような号令を出し,それは今の岸田政権でも続いている。今年の5%賃上げは,まさに「官製春闘」の成果である。資本に対抗して労働者が団結して賃上げを勝ち取ったのではない。政府が「政労使会議」なるものを開いて労使交渉に介入し,「税制で優遇するから何とか賃上げしてやってくれ」と企業側にお願いして実現したものだ。労働団体(連合)の代表(芳野友子)も政府や企業側と仲が良く,その一方で共産党は大嫌いというから救いようがない。今の労組には,官製春闘を打ち破って,社会に広く賃金上昇を行き渡らせようという意志もパワーもないようだ。

 

 また,アベノミクス時代には,消費税を引き上げて法人税を下げ,異次元緩和によって円安を助長し,輸出企業が楽に大儲けできるようにした。同時に,GPIFや日銀が株を買う「官製相場」が株価上昇を下支えした。

 

 紅麹サプリ問題を起こした小林製薬は,安倍や麻生太郎が代表を務めた自民党支部に毎年寄付をしていたというから,国家権力との関係も密だったと言えよう。また小林製薬は地元大阪との関係も深く,安倍政権下で例の機能性表示食品制度の創設を主導したのは,大阪大教授で製薬ベンチャー「アンジェス」の創業者・森下竜一であった。小林製薬は,政府や大阪と深く関わりながら,事業を拡大し,莫大な利潤を生み出してきた。

 まさに国家と資本が結びつきを強めて国家独占資本主義の基礎が確立されたのが,アベノミクスの8年だったといえるのではないか。この国家独占資本主義の下で,私たち働かなければ食べていけない人々は国家と資本によって支配され搾取され食い潰されていく。――以上が,紅麹サプリを通して見た私のアベノミクス総括である。

 

 アベノミクスの負の遺産というか後遺症は,まだまだ終わらない。むしろ,これから本格的に私たちの前に立ち現れてくるだろう。同時に,地方でも規制緩和によって市民の命や健康よりも資本の儲けを優先しようというアベノミクス的な動きが広がっている。その筆頭が大阪であろう。大阪万博は「いのち」や「健康」をテーマにしながら,実は大資本に金儲けのチャンスを与える場と化している(下の東京新聞の記事参照↓↓)。アベノミクスの負の遺産は,大阪万博,大阪IR・カジノへと受け継がれ,いずれこの国全体を覆ってしまうのではないかと恐れる。大阪万博の広告ポスターに出ている公式キャラクターが私には悪魔に見える。大阪万博はアクマノミクス!直ちに中止すべきだ。そして,アベノミクス的なものはこの国から一掃してしまわないといけない…