新型肺炎を緊急事態条項と結びつけるナチス的発想 | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…


 政府のチャーター機で帰国した人たちに政府が一人8万円を請求するというのも酷い話だが,もっと悪質で腹黒いのは,この新型肺炎によるパニックにつけ込んで,上の投稿のように憲法に緊急事態条項を追加しようともくろんでいる一部の悪党どもであろう。「憲法に緊急事態条項があれば!」って,こいつ本当にアホじゃねぇのか。憲法を変えなければ感染症対策が十分にできないとは,どんな国なんだ。こいつは昨日のBSの報道番組で,帰国者に費用を負担させる政府の対応を批判していたが,政府が費用を負担するその先には緊急事態条項が待っているということなのだろう。つまり憲法に緊急事態条項があれば,政府が帰国費用を全額負担できるし,感染症対策も万全にできるという,ナチス顔負けの非論理的でファシスト的な発想・妄想があるわけである。

 緊急事態条項があれば万全な感染症対策ができると国民に思わせて,その勢いで憲法審査会になだれ込み,憲法改正の気運を一気に高めようという魂胆なのだろうが,感染症対策と憲法改正とは1ミリも関係がないことは普通に考えればわかることだろう。人の弱みや不安につけ込んで自らの政治理念や目標を強引に実現しようという手法はファシズムそのものだ。というか,松川って極右的心性の塊みたいな奴でしょ。もう二度とメディアやSNSで偉そうに外交や政治を語るな!

 今日のWHOの緊急事態宣言を受けて,ここぞとばかりに安倍首相が表明した「入国禁止措置」も正気の沙汰とは思えないが,こういう違和感は,中国人ヘイトなどの民族差別が根づいた日本社会では共有されないのかもしれない。むしろこの措置を歓迎する声がネット上では多いようだ(まあ,それを見越して安倍はこういう政令を発しているのだろうが)。しかしね,先ほどのBS_TBSの「報道1930」で中島一敏という感染症の専門家も言っていたが,入国禁止については,まだその段階では全くないし,その必要はないというのが妥当で冷静な判断であろう。そして,うがい・手洗いなどの日常的な予防が何より大切だと,ごく当たり前のことをこの方は結論として述べていたが,そういう当たり前のことを理解できないのがファシスト的頭脳なのだろう。

 それから,同番組で中国政治が専門の興梠一郎氏が述べていたように,今回の感染拡大は明らかに「人災」である。もちろん中国共産党政府による言論統制・情報隠蔽による部分が大きい。この体制の下で常に犠牲になるのは中国市民,国民だ。前回記事でも書いたように,中国は国民の幸福・健康よりも,中国共産党の「党益」が優先される国である。だから台湾はWHOにさえ加盟させてもらえないでいる。だが,今回の新型肺炎ショックで習近平体制は大きく揺らぐのではないかと私は思う。今回の共産党政府による情報隠しについては中国の医師らが暴露しているし,武漢の市長も政府の情報統制を示唆していた。香港の激しいデモも踏まえて考えれば,習体制は国民の信頼を失い,大きなダメージを受けたと言っていいだろう。

 一方,大きくピントの外れた日本政府による入国禁止令については,ナチスが政権掌握後に出した大統領緊急令(「国民と国家を防衛するための大統領緊急令」)とのアナロジーで見るべきではないか,と私は思っている。これは,また別の騒擾事件が起きた時に外国人追放令を発令することに連なるし,宗教異端者や非国民,政敵などをでっち上げて国外追放や強制収容所送りにできる政令にも道を開くもので,いずれは憲法を骨抜きにする緊急事態条項に発展する性質のものだ。ナチス大統領緊急令が必然的に全権委任法(授権法)に発展したように。

 ナチスが政権に就いた直後,国会議事堂が放火されて全焼する事件が起こったが,ナチスはこれをドイツ共産党の仕業と断定し,共産党員の一斉逮捕を行う。これを機に「大統領緊急令」が発せられ,ワイマール憲法の基本的人権条項を停止して,左翼勢力に対する全面的な弾圧が行われた。そして,その後の選挙でナチスが勝って,全権委任法が可決される。すなわち,議会の立法権を政府の執行権に委任する「国民と国家の危難を除去するための法」だ。こうしてファシズム体制の法的な基盤ができあがるわけだが,同時に注意すべきなのは,全権委任法が可決される直前に最初の強制収容所が開設されたということである。

 ドイツは,ナチ党が政権を獲得してから,二ヶ月後,一九三三年三月二〇日,ミュンヒェン北西二〇キロの地に,ダハウ強制収容所を開設する。直接の契機は,国会議事堂放火事件の翌日に出された「国民と国家を防衛するための大統領緊急令」である。
 これ以降,「人身の自由」をはじめとする国民の基本権が停止され,当局が裁判所の許可なく人びとを拘禁できるようになった。ダハウ強制収容所を開設・運営したのは,ナチ親衛隊全国指導者だったヒムラーである。

 (芝健介『ホロコースト――ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌』中公新書p.166)


 このヒムラーになる才能とキャリアを持ち合わせているのは,現在では松川るいが筆頭であろう。それはともかく私たちが銘記すべきは,この大統領緊急令が決定的な分岐点になったということである。今回のようなパニックや騒動を利用し,情緒的なエスノセントリズムや他民族蔑視で政府が強権的な政令を出すのを許してしまえば,待っているのは人権の破壊と大量殺戮である。そのことは歴史が教えてくれているだろう。私が心配なのはウイルス感染拡大よりも,それに乗じた政権の暴走なのである…