民主党政権末期,2012年に自公民の三党合意によって「自己責任」や「自助」を強調する「社会保障制度改革推進法」が成立し,以降,社会保障の解体,破壊が進められているのだが,生活保護基準引き下げは,その先鞭としての意味を持つ。
生活保護基準の引き下げは,最低賃金や基礎年金,就学援助,住民税非課税の基準,医療費の自己負担,各種社会保険料など,私たちの「最低限度の生活」に関わるさまざまな基準とも連動して,日本のシビル・ミニマム全体を低下させていく。
そもそも日本の生活保護基準は,憲法25条の規定=生存権を根拠に成り立っていたはずだ。それが今や生存権などお構いなし!財政再建を錦の御旗にして,支配者側の意向で生活保護はどんどんと削減され,低所得者は切り捨てられていく。社会保障の解体は,同時に憲法の空洞化でもある。
生活保護基準は,憲法25条の定めを受けて,国が健康で文化的な最低限度の生活を保障する基準であり,何らかの理由で最低生活を維持できなくなった場合に,誰もが,国に対して権利としてその保障を求めることができる内容を定めた極めて重要なものである。(尾藤廣喜「相次ぐ生活保護基準の引き下げにどう対抗するか」,『世界』12月号p.39)
偶然ちょうど1年前の今日も,私は生活扶助費の減額について批判する記事を書いていたらしいのだが(「生活保護費減額と佐藤優の思想」),その後も政府による社会保障放棄,生活破壊の企ては予定通り,着実に進んでいると言えよう。
掲題の尾藤さんの記事には,この10年ほどに生活保護の基準がどのように削減されてきたか,その経緯がまとめられている。
自民党はこの「バッシング」を利用して,二〇一二年一二月の衆議院選挙において,「保護の給付対象を一〇%引き下げる」ことを選挙の公約とした。
この衆議院選挙で自民党が圧勝し,民主党政権から自公政権となると,厚生労働大臣は早速に,二〇一三年八月から三年間にわたって平均で六・五%,最大で一〇%,総額六七〇億円もの生活扶助基準の大幅な引き下げを行なった。
(中略)
昨年一二月,厚生労働大臣は,二〇一八年一〇月から三年間で平均一・八%,最大五%,年額で一六〇億円に及ぶ生活扶助基準の引き下げを決定した。
(同誌p.38~p.39)

この衆議院選挙で自民党が圧勝し,民主党政権から自公政権となると,厚生労働大臣は早速に,二〇一三年八月から三年間にわたって平均で六・五%,最大で一〇%,総額六七〇億円もの生活扶助基準の大幅な引き下げを行なった。
(中略)
昨年一二月,厚生労働大臣は,二〇一八年一〇月から三年間で平均一・八%,最大五%,年額で一六〇億円に及ぶ生活扶助基準の引き下げを決定した。
(同誌p.38~p.39)

こうして見ると,自公政権がいかに悪魔の政権かがわかりますね。こういう鬼畜のような切り捨て政策に正当性を与えているのが,低所得世帯と比較して生活保護世帯の扶助基準を決定する,日本独自の算出方法である。こういう支配者側に都合の良い決定の仕方が,貧困のスパイラルを生むのだ。
日本の生活保護制度の最大の問題は,生活保護の利用条件を満たす人のうち現実に利用している人が占める割合(捕捉率)が一五・三%から一八%と推計され,極めて低いことにある。
(中略)
生活保護利用世帯と低所得世帯とを比較する日本の方法では,制度を利用できるにもかかわらず我慢して利用していない世帯が多い分,お互いに低い方に向かう「負のスパイラル」になり,次から次へと引き下げをもたらすことになりかねない。
(同誌p.39)
(中略)
生活保護利用世帯と低所得世帯とを比較する日本の方法では,制度を利用できるにもかかわらず我慢して利用していない世帯が多い分,お互いに低い方に向かう「負のスパイラル」になり,次から次へと引き下げをもたらすことになりかねない。
(同誌p.39)
財政危機とか緊縮の必要性を煽りながら,戦闘機F35やイージス・アショアの購入,護衛艦いずもの空母化など防衛整備には年5兆円超もの大盤振る舞いをし,軟弱地盤で完成する見込みのない辺野古の埋め立てに2兆円超の税金と資源を浪費する。国家理性が膨張,暴走している。日本の政治はもう完全に狂っているとしか言いようがない。特に自民党が政権を取って以降,国家主義的な狂乱ぶりは顕著だ。一体誰のため,何のために国家が存在するのか。アメリカのためなのか。アジア支配のためか。政治家や官僚,あるいは企業のためなのか?
大切なのは個人,一人一人の生活,生命だ。その立場から,安倍政権の国家主義的な倒錯を正し,相次ぐ生活保護基準の引き下げと社会保障の解体には断固抵抗していきたい。その意味で,尾藤さんが提案する「生活保障法」に同意する。そして,その基礎として憲法25条の生存権をしっかりと守っていきたいと思うわけです...。
利用者が主体として生きられる世の中を作っていくために,私たちは「生活保護」ではなく「生活保障」を目的とする「生活保障法」案を提案している。捕捉率の調査・向上義務,・・・扶養義務と資産要件の緩和,保護基準の決定方法などを法律で定める。また,・・・生活保護一歩手前の困難層支援の明文化などがその内容である。その実現をぜひとも図りたい。(同誌p.40)
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