希望と絶望~南北会談と朝鮮学校差別~ | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…



 27日に名古屋地裁が出した朝鮮学校無償化除外の不当判決は同日の南北首脳会談に思いっきり水を差してくれたわけだが,私は,このような朝鮮学校差別・バッシングの戦端を開いたのは,国・政府とともに橋下徹だと思っている。

 政府が朝鮮学校を高校無償化から除外したのが2010年4月。橋下大阪府知事はその年の3月,大阪朝鮮学園に対し補助金交付の条件として,朝鮮総連と一線を画すことや,北朝鮮指導者の肖像画を外すこと,日本の学習指導要領に準じた教育を行うこと,等の「4要件」を突如として提示した。この要件に沿って措置を講じた大阪朝鮮学園の補助金交付申請に対し,10年には補助金を交付したが,11年には肖像画を外さなかったとして大阪朝鮮高級学校への補助金を停止し,12年には平壌での公演に児童・生徒が参加したことを理由に初級・中級学校への補助金までも不交付とした。続いて大阪市も大阪府の決定に追随して補助金不交付を決めた。学園側は補助金交付の再開を求めて裁判に訴えたが,1審(昨年),2審(今年3月)とも請求が棄却されている。

 橋下府知事が朝鮮学校を標的に差別的意図をもって「4要件」を定めたことは明らかである。平等性を担保して弱者やマイノリティを救う趣旨であるはずの補助金制度を悪用して民族教育に介入し,朝鮮学校差別を助長した橋下を,私は許さない。だから前回記事でも政界復帰は絶対に許さないと書いたのである。

 国が朝鮮学校を「高校無償化」から排除し,大阪では橋下が朝鮮学校潰しを目論んだ「4要件」を出してから8年。それは,右翼言論や安倍政権による朝鮮学校差別,朝鮮敵視政策が跋扈する8年でもあった。朝鮮学校への「高校無償化」適用を求める5つの裁判のうち,4つで1審判決があったが,大阪を除いて,広島・東京・愛知の判決は原告の請求を棄却する不当なものであった。今回の名古屋地裁の判決も,愛知朝鮮学校が朝鮮総連から「不当な支配」を受けていたと指摘して,無償化からの除外は適法であるとした。裁判所も,橋下的に行政が民族教育に介入することを認めたわけである。日本の司法は,このような行政の民族差別政策に対していわば「お墨付き」を与えてしまった。橋下と同様,司法もまた腐っているということである。

 国連の人権諸機関は日本政府に対して,朝鮮学校への「高校無償化」適用や,地方自治体の補助金交付再開を勧告している。当然の勧告であろう。マイノリティの教育の保障,外国人学校・民族学校の制度的保障は,国・自治体が取り組まなければならない当然の責務だ。だが日本は,そういう国際社会の要請に真っ向から対立する措置をとっている。これでは国際社会の流れから取り残されていくのも当然であろう。一周も二周も遅れている。それどころか日本がひとり逆走しているようにも見える。これが「普通の国」「美しい国」なんですかね,

 橋下が出した「4要件」にもあったが,大阪や東京などの自治体では,日本の「学習指導要領」と朝鮮学校の教育内容が無理やり対比されたという。植民地主義丸出しの教育行政である。日本の「学習指導要領」に従って教育を行うならば,わざわざ外国人学校や民族学校を作る必要などない。日本人の教育とは違うから民族教育が必要なのである。日本では「民族教育」という語は,主に在日朝鮮人の教育に対して使われるが,日本の学校で行われている教育も日本の「民族教育」であることを忘れてはならないだろう。もしもそういう意識がないとすれば,私たちの中に今もまだ帝国意識,植民者意識が残っていると言える。よりストレートに言えば,朝鮮人への差別・蔑視が根深く巣くっている。朝鮮学校補助金・高校無償化裁判で問われているのは,実は私たち日本社会の良識であり,人権意識であり,植民地支配に対する歴史的責任なのである。

 橋下のような人間が政界復帰して,行政のトップに立ったらどうなるかは想像がつくだろう。差別と排斥が猖獗を極める社会になること請け合いである。だから橋下には政界復帰をしてもらっては困る,というか,彼は絶対に政治家にしてはいけない人間なのである。橋下批判はもう何年も前から書いているが,彼の差別主義・排外主義的言説を打ち砕くまで私は書き続ける。

 南北朝鮮が平和と統一に向けて一歩を踏み出した一方で,私たちの足元では未だに差別と排斥が続いている。希望と絶望に引き裂かれた複雑な気分になるが,それを一番感じているのは在日の人たちであろう。特に今回の名古屋地裁で請求棄却の判決を受けた原告の人たちは,この日どういう気持ちだっただろうか。新聞によれば,原告団を支援するために駆け付けた愛知朝鮮学校の男子生徒は「南北統一が最終目的で,そこに近づくのはよいこと。今後も首脳会談をやってくれたら僕たちもうれしい」と話したという。子どもたちは希望を捨てず未来を見据えている...。