ここ東海地区でも『ニュース女子』という番組を一週遅れか二週遅れぐらいで放送しているのだが,先週たまたま見ていたら,「第1回リベラル総選挙」とかいうテーマで討論をやっていた。そこで最後に「リベラルの星」を選んだのだが,それが誰かというと,なんと
*安倍首相
なのである。極右番組という評判は兼ね兼ね聞いていたが,あまりにもふざけた内容に呆(あき)れて言葉も出ない。安倍首相といえば独裁者もしくはファシストというのが国内外の共通理解だろう。だから,安倍首相を「リベラルの星」とするのは,皮肉や反語的なものかと思われるかもしれないが,出演していたパネラーたちにそこまでの知性やユーモアを備えた人物は見当たらず,どうも真面目に安倍首相をリベラルだと考えている節(ふし)があるのだ。パネラーとして出演していた極右知識人たちの基準がずれてしまっているわけだが,特に経済政策の面で,ほとんどのパネラーがアベノミクスを本気でリベラル的な政策だと思い込んでいたのには驚かされた。
なかでも致命的な議論をしていたのが,
*高橋洋一
という経済学者である。リフレ派として知られるが,彼は自民党政権(小泉政権~安倍政権)と日銀に飼い慣らされた番犬のような学者だ。御用学者の典型と言っていい。本番組でも必死になってアベノミクスを擁護し,その効果や成果を強調して,最後にはこれこそリベラルだと言い出す始末。彼の脳内では積極的に金融緩和や雇用政策などをやりさえすればリベラルになるらしく,救いようがない。市場経済をベースにしながらも再分配を中心に公正平等や弱者救済を追求していくのがリベラル的な経済政策だとすれば,金融・大企業を優遇し格差を広げ続けるアベノミクスはリベラルとは真逆の経済政策と言っていいだろう。
アベノミクスをリベラルだなどと主張する高橋らは,アベノミクス評価で絶対に見落としてはいけない面を見落としている。アベノミクスの正体を見抜けないような学問レベルなら学者はやめた方がいい。教壇に立って人に教えられるような学識ではない。一から勉強して出直して来い!
アベノミクスの正体が戦争国家(=ファシズム)の経済的土台づくりであることを喝破(かっぱ)してくれているのが,掲題の佐高信さんと浜矩子さんの対談本である。アベノミクスはいわば戦時的な統制経済である。そういうアベノミクスの本質を指摘する経済学者があまりにも少ない。それは,今や経済学が新自由主義と同義語のようになり,御用学問に成り果てている現状を示している。そういう堕落した経済学の人格化が高橋洋一である。
さて,本書のサブタイトルは「大メディアの報道では絶対にわからない」となっているが,その通りであろう。上記の番組などは,そういう富国強兵・軍備増強としてのアベノミクスの正体をひた隠しに隠し,それとは正反対のリベラル像をアベノミクスのイメージとして捏造し世間に喧伝している。地上波としてはまれに見る極悪番組だ。こういった御用学者・ジャーナリストばかりがマスコミを賑しているなかで,アベノミクスの正体を暴いた本書は大変貴重である。
高橋洋一がその有効性を主張して憚(はばか)らない,物価目標(2%)を設定するインフレターゲット政策は明らかに統制経済であるし,「政労使会議」で政府が賃上げを要求したり,あるいは「一億総活躍」「女性が輝く社会」「GDP600兆円」「働き方改革」等々,すべて統制経済的な側面を色濃く持っている。そうした統制経済とは対極にあるのがリベラルな経済である。
統制経済であることが今,一番顕著に表れているのが,日銀の御用銀行化であろう。今や日銀は完全に独立性を失い,政権と一体化してしまった。つまり日銀は,通貨価値を守るという本来の中央銀行の役割を放棄してしまったのである(日銀法の有名無実化!)。本来,政府の経済介入を牽制(けんせい)しチェックするのが,通貨の番人としての中央銀行の役割であり,その意味で「民主主義の最後の防波堤」なのである。だが,今ではそれが決壊して,ファシズムという濁流に呑み込まれつつある。本来独立してあるべき政府と日銀(あるいは財政政策と金融政策)が,今や完全な主従関係になってしまった。もちろん主導権を握るのは政府であり,さらに言えば政府というよりは官邸である。日銀は今では,金融政策の主体というよりは,その主体性を奪われて政府の言いなりに国債をせっせと買い込むことを本業としているように見える。いわば「政府の専任金貸し業者」に成り果てている。まだ日銀による国債の直接引き受け(財政ファイナンス)はやっていないといわれるが,日銀の手元に国の不良債権がどんどん溜まっている状態と言っていいであろう。このように政府に従属した日銀の姿に,ファシズム下の経済が重なり合う。
アベノミクスを,ファシズム下,戦時下の統制経済とのアナロジーとしてとらえる本書二人の議論は,本来の理性的な分析であり,したがって的を射た経済の見方だと私は思う。
ところで,佐高さんが師にあたる哲学者・久野収さんの「理性の手段化」という言葉を引いていたが(本書p.138),アベノミクスをリベラルな政策だと強弁する高橋洋一の議論は,まさしく「理性の手段化」だなと思う。つまり経済学という学問を国家権力に都合よく利用しているだけなのである。
アベノミクスで喧伝されている「トリクルダウン]理論」にしても,もともとは貧乏人に対する差別的な発想だとして批判的な文脈で出てきたものなのだが,それがいつの間にか逆転し,貧乏人の生活・福祉向上には不可欠だといった脈絡で使われるようになった。「インフレターゲット」にしても,本来インフレ退治のために考え出された政策だが,それをデフレ克服の手段として流用しているわけである。インフレターゲットは,おそらく国債の直接引き受けを正当化する狙いがあるのだろう。いずれにしても,トリクルダウンもインフレターゲットも,アベノミクス御用学者によって国家に都合よく意味・役割が転換,歪められれて,世間に喧伝されているのである。非正規労働は新しい働き方だとか,原発は経済的に合理的であるとか,そういった議論もすべて「理性の手段化」である。
いかにも理性的・客観的に分析しているように見えて,実は理性がファシズムに従属し,手段化してしまっている。アベノミクスをリベラルな政策だと吹聴(ふいちょう)する高橋洋一の言説は,まさにファシズムに侵された理性の病理的な特徴をよく表している...。
浜 本質的には,大日本帝国に立ち返り,大日本帝国憲法の世界に戻ろうとする悪だくみの明確な一環,有機的な歯車をアホノミクスは形成している。そのことから私たちは片時も目を逸らしてはいけないし,目を逸らされてもいけない。GDP六〇〇兆円だと威勢のいいことを言って国民を喜ばせようとしているわけではない。その読みは実に甘いと思う。国民を踊らせ,戦争国家の経済的土台形成を実現するための濁流のなかに,国民を引きずりこもうとしている。そのことを理解すべきです。(p.16)
浜 今はタカ派の富国強兵路線と竹中的な新自由主義がミックスしてしまった最悪の状態です。(p.22)
浜 新自由主義を突き詰めていくと実は全体主義になるのだと思います。(p.23)
佐高 修養団という社会教育団体がある。戦前に草の根ファシズムを支えた団体ですが,戦後もこれを停止させることができませんでした。それどころか,住友,日立,東芝,松下など,多くの企業が今もこれを支えている。・・・ファシズムと会社組織は地続きなんです。戦争と会社はつながってしまっている。(p.182)
大メディアの報道では絶対にわからない どアホノミクスの正体 (講談社+α新書)/講談社

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