分断と憎しみの時代 | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…


 毎日のようにブログで沖縄高江の状況を伝えてくれている目取真俊氏だが,昨日の記事を読んで,さすが目取真さんらしい,というか,毎日厳しい困難な状況に身を置いているにもかかわらず物事を冷静に見ているなと思ったわけです。

 次期米国大統領にトランプ氏が決まった。沖縄の基地問題にも影響を与えるだろうが、沖縄の現実を変え、歴史を作るのは沖縄県民の主体的な行動だ。他力本願では何も解決しない。「沖縄の現実を変え、歴史を作るのは誰か。」


 「他力本願では何も解決しない」とは,米国の政権交代とか,あるいは日本の政府に期待し依存していたら,いつまで経っても沖縄の基地問題は解決できないということであろう。沖縄の自己決定権,「沖縄県民の主体的な行動」こそが沖縄の自然を守り,現実を変え,歴史を作るのだという目取真さんの民族自決的な視点は,彼の文学創作から一貫している。目取真さんの主だった作品は大体読んだが,そこには沖縄の土地自然に根づいたアニミズム信仰のようなものが通底してあったように思う。そして,それが非暴力とテロリズムの間で揺れる人間をギリギリのところでバランスさせていたようにも思える。

 今日は目取真さんの文学論を書きたいのではなくて,目取真さんの発言を取っかかりにして日米同盟とか米国大統領選のことを考えてみたいわけです。



 上の絵は先日「三又の番組」に出てきた「砂の上の日本」という絵だが,こういう構造は今も変わらないわけであろう。大きなメガネは日本で,サングラスの人間はアメリカさん。メガネの日本に顔はない。紙飛行機もアメリカさんに投げてもらっているが,いつまでも飛び続けるわけでありませんね。いずれは墜ちる。そしてメガネに映っている雲は何だろう・・・。

 目取真さんの発言を私なりにアレンジして言うなら,こういう構造を沖縄や日本の人々が「主体的」に壊していかなければ,何も変わらないということであろう。いつまでも顔のないメガネでいてはダメだということでしょう。

 確かに今回の米国大統領の交代は,対米従属(ちなみに私は「対米追随」ではなくて「対米従属」か「対米隷従」という語を使うべきだと考える)を見直す良い機会になるだろうが,それを実現できるかどうかは何より市民の意識と行動(選挙権行使や学習等々)にかかっている。それがなければ何も変わらない。とりわけ,これまで政治に関心を持てず,結果として現状を追認してきた人たちに,どう覚醒を促すのかという課題が,変わらず横たわっているわけです。まずは目取真さんのブログなどで,辺野古や高江の現状を知るところから始めよう。あそこに日米関係の矛盾とか諸悪の根源が何であるのかが集中的に表れているから。それを知ることで,芸術や文学なども含めて何らかの行動が生まれてくると思うのです。


 さて,日本のリベラル界隈ではトランプ大統領誕生(予定)に対して好意的な評価がマジョリティのようである。確かにトランプ大統領誕生(予定)は時代の要請という側面が少なからずある。グローバル経済がのっぴきならないところまで行き着いて中間層が解体し,格差と貧困という人食いワニが足元で口を開けて待っている。そんな時代状況で,「再び偉大なアメリカを!」というトランプのスローガンが甘美に響かないはずがない。お得意のTPP批判は,働く人々に配慮している点で一見まともに見えるし,日本のリベラル派もそれに同調するけれども,その背後に控える排外主義・差別主義と超国家主義は危険極まりない劇薬である。

 世界恐慌後,失業と貧困が蔓延したドイツにおいて,労働者階級の救済・福祉を訴えて政権をとったナチスが何をやったかは言を俟たない。本来労働者や農民などの味方であったはずの社会民主党が負けてナチスが台頭したのは何も偶然ではないだろう。自らの生活を直撃する経済危機に際して,労働者などの無産者たちは概して冷静な判断ができなくなり,ナショナルな価値や愛国主義を単純明快に唱える人物や政治になびきがちである。だから労働者や一般庶民は,民主主義やワイマール体制の正統性を説く社民党よりも,ドイツ民族の優秀さを訴えるナチスの方に期待を寄せたわけである。

 トランプの差別発言や移民政策はナチスの人種差別主義と重なり合う。トランプのツイッターなどでの発言は,大衆を扇動するという点で危険なものが多い。下のトランプのツイートなどは「プロ市民」とか,ネトウヨが沖縄の反基地運動を中傷するのと同じレベルである。

 公正に開かれた大統領選挙が、大成功に終わった。いま、プロ市民たちが、メディアに扇動されてデモをしている!アンフェアだ!


 民主党の候補者選びでヒラリーと接戦を演じたサンダースの支持者がトランプ支持に流れたという分析は,私も当たっていると思うし,それは東京都知事選で宇都宮健児氏の支持者が小池百合子の支持に回った図と似てなくはないだろう。その心理・行動の変化は,恐慌下のドイツで農民や労働者や中産階級が社民党や共産党を見限ってナチスに期待するようになったのと,どこか相似形をなしている気がしてならない。

 サンダースの自伝を読んだ限りで言うと,サンダースは,ニューディールの古き良き伝統を受け継いだ正統派リベラルという印象を受ける。だからサンダースは,それまで社会から疎外され,政治に全く関心を持てなかった人々に「政治革命」を訴えた。すなわち,中間層からこぼれ落ちた貧しい労働者や弱い立場の人々,マイノリティなど,今の米国の大多数を占める多様な人々を自分と同じ「はぐれ者(outsider)」と呼び,格差や貧困の解消のために彼らの生活や経済の改善を訴え続けたのである。

 彼が闘いを挑んだのは大企業経営者,富裕層,ウォール街など1%に属する人々であり,90年代その利害を代表した共和党のキングリッチを,サンダースは自伝で執拗に批判しているわけだが,そのキングリッチの主張はトランプと大差ない。つまり今回の大統領選では,サンダースとは全く正反対の主張(右翼)をしている者(=トランプ)へと支持者が反転した。サンダースも自伝の最終章(「私たちはここからどこへ行くのか」)で,そういう大衆の心理の危うさみたいなものを危惧していたように思う。(なお,サンダース自伝の感想文はこちら→「『バーニー・サンダース自伝』(大月書店)」)

 ところで,そのサンダースを日本に招聘するために山田正彦氏がアメリカに出向いたという情報を「カレイドスコープ」さんの記事で読んだが,そうであれば是非日本に来てくれることを望む。サンダースの日本招聘はもちろん彼がTPPに反対しているからだが,あわせて沖縄の現状も是非見てもらいたいと思う。米国人としてサンダースが何を思い何を言うのかを知りたい。自伝には,イラク戦争への反対論や軍事予算削減などの主張はあったが,残念ながら沖縄米軍基地や日米安保についての言及はなかった。「カレイドスコープ」ではサンダースは偽物とあったが,私はあの自伝を読む限りでは嘘はないと思った。沖縄に対する姿勢で,サンダースが支持すべき本物であるか,偽物であるかがわかるのではないか。そして,歓迎すべきはトランプではなくて,サンダースであることにも気づくかもしれない。

 トランプも既得権益からはぐれているという意味では「はぐれ者」であり,アウトサイダーとして「強いアメリカ」を訴えて人々の心情をつかんだ。似たような構図は日本でもあるだろう。既成政党から離れた石原慎太郎や橋下徹などは,中国や韓国などを恣意的に敵としてこしらえて憎しみを煽り,差別発言を繰り返すことで人心をつかんでいった。元プロレス・プロモーターのトランプは,その辺りの心理操作はお手のものであろう。

 粗っぽく言うと,生活の苦しい状況に追いやられている人々は,近視眼的に自らの生活を良くしてくれそうな勢いのある政治家に飛びついてしまう傾向がある。だからサンダースからトランプへと容易に鞍替えできる。自分の生活優先だから排外的にも差別的にもなれる。自国の国益しか見られないから米国第一主義,孤立主義になる。今の日本もそうだが,私はこのようにナショナルな価値を求め煽る傾向というのは,極めて危険な兆候であると思う。デジャビューだから。


 移民船を迎えるためにイーストリバー河口方向を向いているとされるニューヨーク「自由の女神」は,移民国家アメリカを象徴するが,トランプが大統領になって米国民がメキシコ国境に壁を築き始めるならば,「自由の女神」が向く方角も180度変わるやもしれない。自由と独立の象徴は,分断と憎しみの象徴になる...。


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