奥底の悲しみ | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

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アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…


 先日、たまたまテレビで「奥底の悲しみ」というドキュメンタリー番組を観たのだが、言葉では言い表せないほどの衝撃だった。証言者が語る一つ一つの言葉内容に震撼した。近年観たドキュメンタリーの中でも随一。

 いつも長々と本などの感想を書いてしまうのだが、この番組については何を書いたらよいか分からない。ここで何を書いてもウソになってしまうような気がする。観てもらうしかないと思い、ネットで調べたらすぐに動画が見つかったので、下に貼っておきました。

 戦争関係のドキュメンタリー番組といえば、最近では例えばNHKの「新・映像の世紀」が話題になったが、あのような膨大な映像資料を駆使した番組というのは確かにインパクトや迫力が、あるにはある。一方、このドキュメンタリー番組で映像資料と言えるのは家族で一緒に撮った白黒写真くらいで、当事者家族の証言インタビュー中心の番組構成なのだが、しかし圧倒的にこちらの方が真実に迫っているように感じるのは何故か。それは体験者一人一人の語りがあるからだろう。当事者の語りほど歴史の真実を伝えるものはないと今さらながらに思った。

 特に泣いたり怒ったりして感情を表に出すことはなく、むしろ淡々と、ときに笑顔さえ浮かべながら、おだやかに語る彼ら・彼女らの言葉、表情、仕草、沈黙…それらすべてが突き刺さる。今ここで私が彼らの語った話の内容を紹介すれば、何だか真実から遠ざかってしまうような気がする。言葉遊びになってしまう。

 「特殊婦人」「マダムダワイ」「ロスケ」・・・。恥ずかしながら、知らない言葉ばかりだった。歴史の教科書には出てこない言葉。記述された歴史というのものが、いかに歴史の上っ面だけを描いているか、タブーを沢山つくってしまっているかを思い知らされる。これらの言葉の奥底に隠された悲しみを知ることが歴史の真実を知るということなのだと、この番組を観て強く思った。今はそれくらいのことしか言えない。


 終戦後、旧満州や朝鮮などで起きた日本人女性に対するソ連兵の性暴力についての証言です。妻や母親をソ連兵に無理やり連れて行かれた家族のつらさ、悲しさ、悔しさ...。強姦された後、子どもと一緒に自決した女性や、妊娠がわかって帰国途上の船から海に身を投げた女性もいたという。妊娠して引き揚げてきた女性には、国も関わって極秘に堕胎が行われた。……辛い話ばかりですが、戦争の真実を知るためにも是非とも多くの人に観てほしいと思いました。


NNNドキュメント「奥底の悲しみ~戦後70年、引き揚げ者の記憶~」

NNN奥底の悲しみ 引揚者の記憶 特殊婦人

【追記1】
 この番組は、戦争とは何か、その本質をえぐり出すようにして伝えている。すなわち、戦争で犠牲になるのは常に女性や子どもなど弱い者たちであるということ。そして、国家が国策で起こした戦争であるにもかかわらず、国家とは何の関わりもない者たちが地獄を見るという不条理。
 国家や戦前の体制が好きな人たちはこういう戦争の本質を見ようとしない。つまり歴史を知らない、知ろうとしない。したがって弱者への共感もやさしさもない。だから平気で靖国詣りなんかができるのだろう。たぶん彼らがこの番組を観ても、ソ連兵への憎しみを煽り立てるだけだろう。しかし、それだけで終わらせてはいけない問題なのだ。
 今、論壇で持て囃されているポストモダン流の相対主義者にも同じことが言える。絶対に本質には目を向けないようにして、あらゆる観点から戦争を相対化し、いつまでも解決できない問題として戦争を議論しようとする。戦争をなくそうという絶対的な立場には決して立とうとしない。なぜなら、そういう決定的なことを言えば、自分たちの言論が商品として売れなくなるからだ。戦争は彼らにとって商売道具または言葉遊び道具にすぎない。だから戦争法案にさして強く反対もせず、むしろ9条改正を指向する。
 今、国民世論はこういった腐った政治家やポストモダンに毒されて9条改正へと誘導されている。このドキュメンタリーを観て、戦争の本質から目をそらさず真剣にこの国の来し方行く末について考えてほしいと思う。

【追記2】(追記ばかりですみません)
 今日の動画との関連でフラミント様の記事も見てほしい(→「沖縄戦晩発性PTSD」)。家族が沖縄戦晩発性PTSDを発症された方の証言です。「日本人みんなで考えて下さい」という言葉は、その意味を日本人一人一人が重くしっかりと受け止めなくてはいけないと思う。引き揚げ者の問題も沖縄戦の問題も、目をそらさずに考えていきたい。こういう積み重ねでしか歴史の真の姿は見えてこないのだと思う。