
「町田のクラブで働くレイ」さんの記事で、こんなブログネタがあるのを知り、私も気分転換に書いてみることにした。といっても、毎回このブログネタで書いているようなものなので、今さら改まって大仰に書くことでもないのだが、最近たまたま読んで、「こころ」に突き刺さった本として、上の本を挙げてみた。
今、「こころ」に突き刺さるという、なんとも文学作品に対して使うような表現を使ったが、本書のようなルポやジャーナリスティックな本に使うのはちょっと変に思われた方も居られるかもしれない。実は本書の中身ではなくて、その序文「はじめに」で、堤さんが珍しく個人的なエピソードを書かれていて、それが、いかにも意表を突かれる感じで「こころ」に突き刺さったのである。
それは、堤さんの父親の話だった。放送ジャーナリストで、アメリカと飛行機の大嫌いだった堤さんの父親は2010年1月、心肺停止で病院に運ばれ、意識不明になる前に次のような言葉を堤さんに遺したという。
「国民皆保険制度がある日本に生まれて、本当に良かった。これがない国だったら、最後は悲惨だっただろう」
「この国の国民皆保険制度を、なんとしても守ってくれ」
「この国の国民皆保険制度を、なんとしても守ってくれ」
ちょうどその頃、海の向こうのアメリカでは、いわゆる「オバマケア」(医療保険制度改革)が導入されようとしていた。本文では、その恐ろしい実態が暴露されているのだが、それはTPP後の日本の未来を映す鏡でもある。すなわちそれは、グローバリズム(多国籍企業)やマネー資本主義(ウォール街)や同盟関係(日米安保)という回路を通って確実に日本に跳ね返ってくるものだ。
本書は、アメリカに批判的なスタンスの人はもちろん、アメリカが大好きな人にも是非読んでほしいと思う。堤さんの徹底した取材と実態報告は、確かにアメリカのネガティブな面をえぐり出しているけれども、そこにはアメリカに対する無限の愛が込められているからだ。それを共有してほしいと思うのである。
九・一一のテロ以降、かつて憧れたアメリカの変貌ぶりに、私は失望させられっぱなしだった。自由の国。誰にでもチャンスが与えられる夢の国アメリカは、いまやすべてをマネーゲームの商品にしながら、世界規模で暴走中だ。
そして「医療」という、人間にとってもっとも根源的なものまでがゲームにされたなら、その波は確実に国境を越えて、ここ日本にも到達するだろう。(本書p.12)
そして「医療」という、人間にとってもっとも根源的なものまでがゲームにされたなら、その波は確実に国境を越えて、ここ日本にも到達するだろう。(本書p.12)
アメリカ。私の愛してやまない国。そのアメリカが壊されてゆくことへの怒りと、守ろうと闘う人々の存在が、取材を続ける原動力になる。(p.203)
「国民皆保険制度をなんとしても守ってくれ」という、堤さんの父親が娘に遺した言葉は、日本で暮らす私たちすべてに向けて発せられたメッセージにも聞こえる。守り抜かなければ、と強く思う。
取材の中で、アメリカの医療現場の人々に幾度となく言われた言葉がある。
「あなたの国の国民皆保険制度がうらやましい」
WHOが絶賛し、世界四〇か国が導入する日本の制度。時代の中、さまざまな変化と共に個々の問題は出ているが、時の厚生労働省や医師会、心ある人々によって守られ、なんとか解体されずに残ってきたそのコンセプトは、私たちの国日本が持つ数少ない宝ものの一つなのだ。(p.201)
「あなたの国の国民皆保険制度がうらやましい」
WHOが絶賛し、世界四〇か国が導入する日本の制度。時代の中、さまざまな変化と共に個々の問題は出ているが、時の厚生労働省や医師会、心ある人々によって守られ、なんとか解体されずに残ってきたそのコンセプトは、私たちの国日本が持つ数少ない宝ものの一つなのだ。(p.201)
沈みゆく大国アメリカ (集英社新書)/堤 未果

発売日 2014/11/19
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