一本の鉛筆 | ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

ブロッギン敗北【ご愛読ありがとうございました】

アウシュヴィッツが陸の上のジェノサイド、ヒロシマ・ナガサキが空からのジェノサイドだったとすれば、水俣病は海からのジェノサイドである。(栗原彬)
そして21世紀のいま、史上最悪のジェノサイドがパレスチナの地で、殺人国家イスラエルによって遂行されている…


一本の鉛筆/美空ひばり


 何年か前,『国家と音楽家』という本を読んでいるときに,日本で国家と真っ向から対峙した音楽家はいるのだろうかという疑問がよぎった。この本はドイツ・イタリア・ソ連など外国の音楽家(作曲家・演奏家・指揮者など)しか取り上げていなかったからだ。日本では美空ひばりぐらいだろうかと思ったが,その後,『抵抗のモダンガール』という本で,吉田隆子という作曲家を知り,国家や戦争に敢然と抗した女性音楽家が日本にもいたのだなと深い感銘を受けた。ちなみに治安維持法で検挙された音楽家はこの隆子だけらしいことも,この本で知った。

 それにしても,戦争の時代に限らず,日本の音楽家はなべて国家や体制に迎合していく傾向が強いのではないか,と思う。というのも,『国家と音楽家』で描かれていたように,世界的な音楽家といわれる人たちは,国家や政治に巻き込まれながらも何らかの形で自立や抵抗の姿勢を示していたからである。

 国家やNHKに立ち向かった美空ひばりは,やはり権力とは対極にある国民,というか人間一人一人にとって大切なことを歌っていると思うよ。日本の国家権力からすれば,上のような歌は放送禁止にしたいだろうね。

 「あなたを返して」,「戦争はいやだ」,「八月六日の朝」,「人間のいのち」・・・。

 今は,こういう大切な価値が,あらゆる場面で軽視されるか忘れられてしまっている。特に政治の場面では完全無視だ。辺野古埋め立て工事の強行とか原発再稼働,集団的自衛権の行使など,倫理の倒錯,狂気の沙汰というよりほかない。

 美空ひばりや吉田隆子の音楽で,私たちにとって大切なものは何かを今いちど確かめ,それを受け継ぎシェアしていきたいと思う。

国家と音楽家/中川 右介

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抵抗のモダンガール 作曲家・吉田隆子/田中 伸尚

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