先日,PC遠隔操作事件で身柄拘束されていた片山被告が保釈されて,記者会見を開いていたのをテレビで見た。この事件から受けた印象として,とりあえず最初にまともなことを言っておくと,あの状況証拠だけで1年あまりもの長期にわたる勾留というのは,明らかに人権侵害だということである。江川昭子も言っていたけれども,この長期の身柄拘束,「人質司法」というのは,裁判をやる前から刑罰を科しているようなもので,これはちょっとまずいだろうと思った。
片山氏は裁判や会見で,自分も遠隔操作の被害者だとして,真犯人に自首してほしい,それが無理なら片山さんは犯人ではないというメッセージを発してほしい,といったようなことを述べていたが,もし本当にそういうアクションを,真犯人を名乗る人物が起こしたら,どうなるだろうか,と考える。
検察と警察は,また別の誰か(仮にA氏とする)を,片山氏を遠隔操作していた真犯人として,状況証拠を積み重ねることで逮捕勾留するだろう。A氏もまた,自分は遠隔操作されていた被害者だと主張して,自ら罪を自白しない限り,不起訴になるか,裁判になっても有罪になることはないだろう。なぜなら,片山氏と同様,証拠はすべて状況証拠で,直接の物証はないからだ。で,また警察は,そのA氏を遠隔操作していた人物(仮にB氏とする)をでっち上げて,逮捕する。が,また証拠不十分で釈放となるだろう。こういう想像が根拠のないものでないことは,片山氏の前にすでに何人か誤認逮捕されていることからすれば認められるのではないか。さらにC氏,D氏,E氏,F氏と,次々と被害者が出るだろうが,その連鎖が止まり,有罪判決が下される決め手は何かというと,容疑をかけられた人物の自白である。検察の強引な取り調べに屈し,自白を強いられた者が真犯人となる。そういう意味では,戦前から検察・警察の体質は変わらないのであって,むしろ,確たる証拠を特定しにくいネット社会になって,刑事司法における自白偏重は助長されていくのではないかと危惧する。だから,今回のような遠隔操作事件で,仮に嫌疑をかけられたとしても,絶対に自白をしてはいけない。自白さえしなければ,証拠はすべて検察側が仕組んだ状況証拠であるから,必ずや無実が立証されるはずである。
こうして自白がなければ,検察側は遠隔操作をどんどん遡って犯人捜しをすることになるが,その挙げ句,一体どこにたどり着くだろうか。ネット上で遠隔操作が可能である限り,PC内の記録は直接の物証とはなり得ないだろうし,もうネット空間に決定的な証拠を求めるのは無理なのではないか。なぜならネットの隅から隅まで遠隔操作が可能なのだから。今回の事件で片山氏が容疑者とされた有力な証拠は,遠隔操作ウイルスの痕跡が片山氏の派遣先の会社のパソコンにあったというものらしいが,そのウイルスにしたって,誰かが片山氏をスケープゴートにするために遠隔操作で仕込んだ可能性は否定できないだろう。
そうするとネット犯罪は,極めて捜査が困難なものとなる。遠隔操作が介在することにより,直接証拠があり得ない世界になってしまったからだ。となれば,犯人の自首・自白に期待するか,それが無理なら,捜査側が状況証拠をたくさん積み重ねていくしかなくなる。が,その過程で捜査側は何としても犯人を検挙するために証拠の捏造を行う蓋然性は高くなるに違いない。
遠隔操作が可能であるという状況ができあがったことで,ネット上の記録や痕跡が直接証拠として採用されにくくなり,もう誰が誰を遠隔操作しているのか,誰が被害者で誰が加害者なのか,複雑に絡み合ってわからなくなる。まさに蜘蛛の巣状態である。が,その状況は同時に,捜査機関がネット上に状況証拠をでっち上げることを容易なものにする。今回の片山氏のケースでは,640点もの証拠が採用されるというが,それらも実は捜査機関が遠隔操作でフレームアップしたものと考えることもできるのである。あくまで推測にすぎないが,しかし,もうネット犯罪では推測以上のことを言えるだろうか。そう考えてくると,遠隔操作をやっている真犯人をどんどん遡って辿っていくと,結局は捜査機関に行き着くのではないかと思えてくる。ネズミ講やマルチ商法とのアナロジーで言えば,得をする者,いわば加害者は,元締めだけであり,残りのほとんどすべての人たちは損をする被害者である。つまりネットの遠隔操作事件では,その元締めは国家司法権力たる検察・警察にあたるように思われるのである。
今回の遠隔操作事件の場合はよくわからないが,今後,警察権力が,遠隔操作で他人のパソコンに侵入し犯罪予告などをした犯人を遠隔操作ででっち上げることは十分考えられる。つまり遠隔操作事件を遠隔操作ででっち上げる国家犯罪。しかも秘密保護法によって警察国家的体制が整備された今,そういう国家犯罪はますます現実性をもって私たちに迫っている。そのことの警告として,今回の事件を受け止めている。
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