1950年,朝鮮戦争が勃発した頃,しづ子はダンサーとなって,今の岐阜県各務原市に流れていた。進駐軍相手のキャバレーで働いていたらしい。そこで黒人兵士ケリーと出会い,恋に落ち,同棲。だが,ほどなくケリーは朝鮮へ派兵。麻薬中毒となって日本に帰還,アメリカへ帰国。そして,ケリーの死。・・・
(以上は『夏みかん酢っぱしいまさら純潔など』に収められた正津勉氏の解説による)
そのあたりの事情を背景にした句が収められた第二句集『指環』は,『春雷』よりも生の悲しみが重く,深く読者の心に響く。
花吹雪岐阜へ来て棲むからだかな
ダンサーも娼婦のうちか雪解の葉
霙れけり人より貰ふ銭の額
花の夜や異国の兵お指睦び
黒人兵の本能強し夏銀河
まぐはひのしづかなるあめ居とりまく
朝鮮へ書く梅雨の降り激ぎちけり
雪粉粉麻薬に狂ふ漢の眼
傲然と雪墜るケリーとなら死ねる
海の霧復へるなくして渡るべきか
霧五千海里ケリークラッケへだたり死す
娼婦またよきか熟れたる柿食うぶ
夏みかん酢っぱしいまさら純潔など
この句集『指環』の刊行された1952年にしづ子は失踪。その後の消息は不明である。『指環』の跋文にはこう書かれていた。
何もかも捨ててしまいたい気持ちにさせられます。それでも時折,不意に,此の世に未練がましいものが頭をもたげてきます。・・・前半生を了えてみてつくづく思うことは,けっきょく自分は弱かった―――人生というものに完全に負けてしまった,ということ。
立ち上がりたいと思います。
最後の「立ち上がりたいと思います」という言葉が,その意味とは裏腹に,彼女の内攻していく心理を表しているかのようにも思え,悲しい響きを醸す。
明星におもひ返せどまがふなし
(水無月いなのめにしるす E.K.)
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