『悪魔の新語辞典』(芥川龍之介「侏儒の言葉」及びビアス『悪魔の辞典』増補版として)
人 生
社会保障制度改革に消費増税を重ねたとしても,我我人間の生活は「選ばれたる少数」を除きさえすれば,いつも暗澹としているはずである。しかも「選ばれたる少数」とは「阿呆と悪党と」の異名に過ぎない。
注) ちなみに阿呆とは,いつも自分以外の人々をことごとく阿呆と考えている人間のことである。
文 芸
文芸的な,あまりに文芸的なものは,大抵は確かに詩的である。それはただ身辺雑事を描いただけの私小説ではない。話の面白さや優美さなどは評価の埒外である。最も文芸的な文芸は,作品から話の内容や意味を全部はぎ取って,ついには何もない砂漠の天に立つ蜃気楼のようなものである。一群の小説家は,百般の人事には幻滅しても,文芸的な美には幻滅していない。彼らは常人の見ない金色の夢が空中に現れるのを見,あるいは弥勒菩薩が地上を歩いているのを見るのである。
注) なお,昨今の芥川賞受賞作品にパアソナルな体験を素材にした露骨な私小説作品が多くなってきたことは,少々幻滅する。
音 楽
ストリートで打ち下ろす,あのハンマアのリズムを聞け!その怒りのリズムの存する限り,ラップミュージックは永遠に滅びないであろう。(21世紀の第一日)
注) なお,このUS発の音楽が海を渡って我がジパングにやってくると,そこに込められていた社会や権力に対する怒りが,いつの間にか友情とか異性との恋愛とか家族への感謝とかいった生ぬるい感情へと変異するのは,残念といえば残念である。

