そういえば今年の1月,本ブログで荷風の訳詩「偶成」を紹介していた。世界最強のHOMOSEXUAL詩人,ヴェルレーヌの「空は屋根の彼方に…」という詩を訳したものだ(この原詩の簡単な背景は1月のブログを参照)。とても心に染み入る詩であるので,恐縮ながら再録させていただく。
堀口大学や橋本一明の訳があるが,フランス文学や語学に通暁していた荷風の訳は,やはり秀逸!是非,味わって詠んでいただきたい。
お前は過去に何かを成し遂げたか!お前は若い頃に何をしたか!―――家の窓からわずかに見える空を眺めながら問いかけよ!そして,唯ゝ嘆け!!
偶成 ポオル・ヴェルレエン(永井荷風訳)
空は屋根のかなたに
かくも静 にかくも青し。
樹は屋根のかなたに
青き葉をゆする。
打仰 ぐ空高く御寺 の鐘は
やはらかに鳴る。
打仰ぐ樹の上に鳥は
かなしく歌ふ。
あゝ神よ。質朴なる人生は
かしこなりけり。
かの平和なる物のひゞきは
街より来 る。
君、過ぎし日に何をかなせし。
君今こゝに唯だ嘆く。
語れや、君、そもそもわかき折
なにをかなせし。
空は屋根のかなたに
かくも
樹は屋根のかなたに
青き葉をゆする。
やはらかに鳴る。
打仰ぐ樹の上に鳥は
かなしく歌ふ。
あゝ神よ。質朴なる人生は
かしこなりけり。
かの平和なる物のひゞきは
街より
君、過ぎし日に何をかなせし。
君今こゝに唯だ嘆く。
語れや、君、そもそもわかき折
なにをかなせし。



