昨日もこのあたりは,午後からずっと小雨が降り続いた。雨の捉え方は人それぞれであり,また,その時々の心情によっても雨の風景は変わってくる。昨日の細かな雨は,荷風が「花より雨に」で書いたように,「雨の糸は高い空から庭中の樹木を蜘蛛の巣のやうに根気よく包んで」いて,実に「陰気ないやな雨」だった。
昨日も書いたが,荷風の描く雨は,しみじみとした侘びしさとか悲しさとかが込められているが,今日紹介する荷風の訳詩も同様にして,侘びしくやるせない。だが同時に,そういう心情を越えて,その訳詩は音楽的であり,美しくもある。その訳詩とは,ちまたでは「ちまたに雨の降るように」という題で知られるヴェルレーヌの詩である。この詩は,ヴェルレーヌが例のホモの恋人,ランボー君に向けて書いたものだが,そうした背景を一気に飛び越えて,荷風の訳詩は一つの独立した,秀逸の日本語詩となっている。他の訳詩と比べてみればわかるが,荷風の訳は,「素晴らしい」の一言に尽きる。荷風はホモではないが,雨に対するヴェルレーヌの思いとどこか合致した部分があったのだろう。
都に雨の降るごとく
ポール・ヴェルレーヌ
永井 荷風・訳
都に雨の降るごとく
わが心にも涙ふる。
心の底ににじみいる
この侘しさは何ならむ
大地に屋根に降りしきる
雨のひびきのしめやかさ。
うらさびわたる心には
おお 雨の音 雨の歌。
かなしみうれふるこの心
いはれもなくて涙ふる。
うらみの思あらばこそ。
ゆゑだもあらぬこまなげき。
いかなねゆゑにわが心
かくも悩むか知らぬこそ
悩のうちのなやみなれ

