2月11日~14日にホイットニー・ヒューストンの来日公演がある。もちろん行かないが,バレンタインデー当日かその前ということもあり,おそらく彼女の歌声に酔いしれるスペシャルなステージになるだろう。このブログでは1/29付の記事で少し触れたが,個人的にはそれほど好きなアーティストではなかったので,あまり思い入れはない。だが,日本でもとんでもなく売れたアーティストである。彼女の曲にまつわる何らかの想い出がないわけはないだろう。
ちょうど僕が劇場に通っていた'90年代前半,ホイットニー主演映画のサントラ『ボディガード』が爆発的にヒットした。もちろんいい曲がたくさん入っていて,特にホイットニーが歌い上げる正当派バラードが聴き応え抜群で,多くの人に感銘を与えるアルバムだった。だから,劇場を仕事場とする踊り子たちもこぞって,このアルバムからステージング曲をピックアップして使っていた。また,『ボディガード』がヒットする前も,超大ヒット・アルバム『そよ風の贈り物』(ちなみに,このアルバムは今年が発売25周年らしく,記念限定版も出ているようだ)からの曲をステージに使う踊り子は多かった。だからホイットニーのヒット曲を聴くと,夢中になって遊び呆けていた若かったあの頃を想い出す。ソウル・オリンピックの開会式で歌った感動的バラードOne Moment In Timeも,オリンピックとではなく,劇場の想い出と結びつく。
僕だけの感覚だが,ホイットニーの力強く伸びのあるヴォーカルと万人受けするサウンドは,妙に劇場の雰囲気とマッチした。当時,マライヤ・キャリーやセリーヌ・ディオンも出始めの頃だが,やはりホイットニーの曲が,特にベッドショーのステージを最高に盛り上げた。薄暗く陰湿でよどんだ空気の客席,それとは対照的にダンサーの華美な化粧と衣装,そこに照らされる,きらびやかなライティング。そうした非日常の空間にホイットニーの音楽は不思議と溶け合った。
好き嫌いは別にして,昨日の松本隆の話ではないが,広く大衆の心を掴み,今なお歌われ続けている彼女の曲は,何といっても名曲である。彼女の曲も何らかの普遍性を持っているのだろう。が,その普遍性と同時に,名曲というのは,聴く個人個人にその人だけの特別の想い出を,曲に添えてくれるものだな,と今になって実感する。
そろそろ能書きはもうやめて,ホイットニーの曲を一つアップしよう。彼女のソロ・アルバムの中で,僕が一番好きなのは『アイム・ユア・ベイビー・トゥナイト』。LAリード&ベイビーフェイスのプロデュース・ナンバーが中心で,さらにルーサー・ヴァンドロスやスティービー・ワンダーのプロデュース作品もあり,地味だが,R&B濃度の濃いアルバムである。その中から,一曲目に収録のLA&ベイビーフェイス作品,I'm Your Baby Tonight。
来日つながりだが,ホイットニーと同じ系統のライオネル・リッチーも,新ベスト・アルバムを携えて昨年末ごろ来日した。ライオネル・リッチーも特別好きなアーティストではないが,ここで取り上げたのは,彼の代表作でもあるHelloという曲のPVが,可笑しいというと失礼だが,ミステリアスな世界を描いているからだ。先日たまたまテレビで流れていたので,また見入ってしまった。PVの中でライオネルは何者なのか。盲目の女子学生に恋した音楽の先生役なのだろうが,違和感がありすぎて,失笑してしまう。ストーカーと間違えられても無理はない。ストーリー的には,最後に盲目の女性が作った自分の顔の像に驚きながら,「Hello! Is it me you're looking for?」と声をかけて,感動的なエンディングなのだろうが,数分のPVで凝ったストーリーを盛り込むには無理がある。ビデオに集中してしまって,曲の印象が薄らいでしまった,そういったPVだった。名曲Hello。