がんちゃんと話したあの日から1ヶ月ほど経った。




今日は収録のためスタジオへ向かっている。最終バスに乗り、スタジオに一番近いバス停で降りた。




今日の収録時間は遅い時間からのスタートで既に外は真っ暗。




楓はバイオリンを膝の上に置いてバス停の椅子に座って時計を見た。




楓「思ってたより早く着きすぎちゃったなぁ。」




男「ねーねー、どうしたのー?」




楓「?!」




男「どこ行くの?送ろうか?」




楓「結構です。」




男「ここにいても今日もうバス来ないっすよ。」




声をかけてきた男性が近づいてきてスッと肩に手を回してきた。




楓「だ、大丈夫です!」




怖くてバイオリンを抱えて立ち上がろうとしたけれど、肩に回された手に力を入れられた。




楓「離して下さい!」




臣「おい!!その手離せよ!」




楓「!!」




男「!!なんだ待ち合わせかよ。」




楓「えっえ?臣さん…ですか?!なんで…?…あっ!ありがとうございました。」




臣「お礼なんていいよ。たまたまちょっと気晴らしに外の空気吸いに出てきただけだし。てか会ったついでにさ…今、少し話せる?」




楓「はい。」




臣「単刀直入に言うけど最近がんちゃんに会った?」




楓「いいえ、会ってません。

…少し前にちょっとありまして、会ったら私またがんちゃん困らせちゃうかなって。もうがんちゃんを悩ませたくなくって。」




臣「最近、がんちゃんほとんど笑わないんだわ。」




楓「えっ…」




臣「いっつも思い詰めたような顔しててさ。

でも今確信した。がんちゃんも同じように考えてんだろうなー。あんたたち似てるんだな。

あのさ、相手のことを考えるのは大事だけどさ、自分も同じくらい大事なんじゃね?

自分のその思いきちんと顔見て伝えてみたら?」




楓「伝えたいです。でも怖くて…」




臣「その気持ちもさ、がんちゃんがわかってないと思う?」




楓(小さく首を横に振る)




臣「じゃぁ行こうか。」




楓「えっ?!」




臣「今だろ?

  会いたいの、今だろ?」




臣くんの真っ直ぐな言葉に楓は静かに頷いた。