
世の中に
たえて桜の
なかりせば
春の心は
のどけからまし
(在原業平)
満開の桜の中を歩くと、溢れる生命感を感じとり、夜桜を眺めるとイリュージョンを見ることがあります。
桜を描いた泉鏡花の「桜心中」は怪談です。金沢、夜の兼六園に、艶やかな女性が現れます。出会った青年に突然、「殺される。切られてしまう」と打ち明けます。慌てる男に、実は自分は桜の精だと告白します。
願はくは
桜の下にて
春死なむ
そのきさらぎの
望月のころ
(西行法師)
花には罪がなく煩わしいと思うのは人間の心であります。無常の桜に感情移入をするのは日本人の特性かも知れません。
花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに(小野小町)