塚口漬け | Electronic Dolphin Eats Noise

Electronic Dolphin Eats Noise

空論上の九龍城

2014年2月のある日 @ 塚口サンサン劇場

今日はこの最愛の劇場で一日過ごします。

『小さいおうち』
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恐るべき強度の傑作やな。
あの予告でヒシヒシ感じた予感(と言うより悪寒)は間違いでなかった。
山田洋次、ここに来て凄まじい進化。

一本のラインを辿る事の不気味な美しさ。と、そこから食み出る覚悟と、漏れる色香。

何だ!?これは!な、山田洋次監督の新境地にして、野心的・革新的傑作!
確かにキャスト使いは山田洋次そのものなのに、滲み出るモノ達の温度が桁違いに熱い!
こんな82歳、こんな82本目、歓喜せよ!


日本が戦争へと引き返せぬ力で以って突入する縦軸と、美しき日本の所作を辿る強靭な想いの縦軸とが、相反しつつも並列して進む中、そこから食み出る事で漏れる色気・怒り・哀しみ…がスクリーンから滲み出て来る。

兎に角カメラが嘗てない程にエロい!あの足元に特化したエロス…

食み出・滲み出るエロス=生命の仄かな(当時の国家への)反抗である。

二階の他人。のSEX。
黒木華ちゃんの肉体性。


そして、ここでの所作の美しさは眼への贅沢な御褒美である。
和装の衣擦れ。
お雑煮の匂い。
手紙のしたため。
一つ一つの動き、音が活きている。


塚口サン的にはここ一年、山田洋次監督を多角的に考察する機会を設けてた訳で、個人的にも改めてこの巨大な才能の功罪に想い馳せられたのですが、いやはや此れ程の境地へと誘ってくれる事になろうとは…
あの予告にも使われた長回しの、そして後半の展開の絶句具合には唯々平伏す。


大旦那様である橋爪さんの足を踏んであげてるとこ…奥さん来たら、ふと、何事もなく向き変えるのね。
あー言う感覚ドキッとした。


予告でも使われてた黒木華vs松たか子の小さいおうち前で言い争うとこ…
あそこ、近年の邦画史を語る際絶対外せないね!

まぁ、華ちゃん、凄い!


さて、間髪入れずのペコロス!
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『ペコロスの母に会いに行く』、舐めてたわぁ~。
文句無しに傑作、そしてオモロイ!


長崎と言う街の持つ歴史と現在を、人の記憶と老いとにダブらせ、封じてた・失ってしまっていた想いを認め・抱え前へと生きて行くその一歩へと、観客皆で進まんとさす傑作!


原作者は当然ながら、監督、そしてキャストと長崎で生まれ育った面々が鮮やかに駈ける長崎の街の生命力に先ず持って行かれる。
坂の躍動感。家々の軋み。
言葉。
そしてラストのあの展開へと我々を引き込むランタン祭りの幻想美!


当初岩松了さんのあのヴィジュアルを見た時に、うーんと迷っちゃってた面あったんだけれど、まぁ、抜群でしょ!
特に赤木春恵さんとの漫才の様なやりとりには腹抱えて笑ったし、だからこそ、後半際立つ哀しみがお涙頂戴になんか陥らないのだ。


まぁ、何より原田貴和子&知世姉妹のまさかの親友設定での共演が嬉しい(絡まないけど)。
特に愛情出演な知世様は、作品に独特の香りを漂わせてくれていて流石だ。


塚口サン的には、何気に森崎東監督は『時代屋の女房』で予習済みでありました。
が、うーんと、あんま共通項はないか(笑)。
それよか、嘗て寅次郎を共に作り上げた山田洋次監督の『小さいおうち』との共通項の方が興味深い。
あと、『くじけないで』も思い出した。

こうやって、同日同劇場で山田洋次&森崎東両監督の新作を堪能出来る至福!
遠く離れてた筈が、辿り着いた場所は目と鼻の先?


『櫻の園』…魘されそうなカメラワークと人物の絶妙な配置、つみきみほの眼、ショパン、櫻、屋上、アイス…
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『青い春』…龍平の余りに鮮烈な身体性と、新井さんの漆黒の対比、ミシェル、フォスター、櫻、屋上、ホームランバー…

『櫻の園』&『青い春』 @  35mm実写漫画大全もいよいよオーラス。
干支二周り前、残酷な迄に美しく、少女達の呼・応を切り撮った『櫻の園』。
干支一周り前、痛い迄に鮮烈に、少年達の軋みを焼き付けた『青い春』。
有終の美か?若しくは新たなる幕開けか?


『櫻の園』 
流石にもう綻び出てるんじゃないのか?な、意地悪な眼差し忍ばして劇場入ったものの、何や、全然今でも朽ちとらんがな!いやいや、これ、輝き増しとる!!!
な、余りに評価され捲りの青春映画の金字塔。それって90年代以降の作品では稀な事態だ。


チェーホフの同名戯曲上映前の、ある女子校の演劇部の“静かなる葛藤”を描いた吉田秋生原作の同名漫画を、中原俊監督が当時の未だ無“色”な若手女優陣を大量投入し、余りに鮮やかに映画へとリフォームさせた名作。
後に同監督・同原作で新たに映画化されましたが、此方は1990年版。


上演前の演劇部の葛藤を、若手の思惑たっぷりな女優陣に演じさせているある種のメタな構造が、上映に向けて軋みつつも、流麗なアンサンブルへと向かい始める構成へと組んだ中原監督の手腕に唸る。


中島ひろ子さんや白鳥靖代さん他、演劇部員演じた女の子達の余りにリアルな演技、殆ど言及されないそれぞれの背景すらきっちりと描き分けられている演出には驚嘆する。
特にあの部室でほぼ総員での、アイス食べながらの超絶長回し(風)会話劇はどう撮ったの!?
アイス食べながらだよ!


しかし、白鳥靖代さんは全く高校生に見えない(笑)。
色っぽ過ぎるやろ!
ここでの彼女が後の『女優霊』へと…?
廊下で一人惑う姿には既視感あった。


そして、矢張り、つみきみほ。
登場でもう息を飲み、一言目で心鷲掴まれた。
あの強烈な眼差し。
しなやかな立ち姿。
上演へ向け流れる少女達の大きな川の中、チクチクと異物感で堰き止める彼女の言葉が今も痛い。
是非つみきみほ映画祭やって下さい。


『青い春』

松本大洋原作の同名人気短編集を元に、豊田利晃監督が鮮烈にフィルムに焼き付けた青春譚。
兎に角キャストが今観直すと異常で(笑)、松田龍平に新井浩文、高岡奏輔や山崎裕太、忍成修吾や塚本高史、そして瑛太まで出てるよ!


昔レンタルして見た時はふぅーん、と覚めた反応しちゃっておりましたが、改めて今フィルム×劇場で観るとその鮮烈さに撃たれちまった!

学校の重量に囚われない身体性で以って校内駆ける松田龍平と、そこに対峙する事でしか自分を見出せなかった漆黒の闇そのものへと呑まれる新井浩文!

オバケ演じる瑛太がとてもユニークで、本筋にほぼ絡まない浮遊感は今となっては贅沢極まりない。

残念なのは龍平と直接絡まない事。


あのホームランバーへの執拗な執着が謎なんだけど(笑)、購買のおばちゃん役がキョンキョンなのはすっかり忘れてたよ。
そして『空中庭園』か。


そして、そして、そして、
龍平がもう既に此処で完成されているのにビビった。
当時は青いなー、おぼこいなー、なんて思ってた筈なのに。

もう、純粋と邪悪が矛盾なく同居する眼差しがね、スゲーわ。


塚口サンの35mm実写漫画大全での『櫻の園』と『青い春』。
対極な青春なれど、共通したモティーフはあるな。
前述したアイスは儚さを、屋上は希望か?
そして櫻だ。
劇中の台詞でもあった。毎年変わらず咲く姿と、変わって行く自分の対比。
これこそ青春だし、そして映画の醍醐味な気がした。


嘗てその映画を観た自分と、今改めて観る自分。
感じ方変わった部分で、逆照射される自分の成長。

塚口サンのシアター1での35mm上映の醍醐味を櫻の鮮やかさと共に味わえたオーラスでしたよ。

もう一本観て帰る!『ブリングリング』!

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想像以上のスッカスカ(笑)。
いや、此処まで来たら天晴!
このグルーヴは中毒性あるな。

こんなん撮れるのソフィアだけだし、こんなん許されるのソフィアだけだし(褒めてます)、こんなん撮ろうと思うのソフィアだけだろう(褒めてるってば!)。

塚口サン的には、エマ繋がりもあって最初『ウォールフラワー』?かと思いきや、『スプリング・ブレイカーズ』だった(笑)みたいな、ソフィアの新作は、個人的には初作以来に楽しめた。


何より音楽が下衆くって最高!

アメリカのポップミュージックはここまで来ちゃったのか!?な見本市でもある。
人工着色料100%なスッカスカの電子グルーヴを劇場の爆音で聴く快楽。


ここでも健在なソフィア・コッポラのあの色素薄ーいカメラはやっぱ好きだけど、それが作品にどう映えるか?と言うと難しい。
その点『SOMEWHERE』は合致してはいたけど、作品としては全然心掴まれなかった。



本日のラインナップ。

『小さいおうち』
『ペコロスの母に会いに行く』
『櫻の園』
『青い春』
『ブリングリング』
夢の塚口サン12時間漬け終了。
大満足。
残念だったのはシアター3を組み込めなかった事(笑)。


でも、今日塚口で五本観た以上に、真にインパクトあるのは、五本観たのに映画代は¥1300しか払ってない事だろう!
パンフ3冊買ったから、そっちの方が高い!
恐るべし、塚口サンの異常なサーヴィス魂!


一応誤解なき様に言っときますが、沢山観てるからのサーヴィスです。
あくまで50/50な関係性。