暗号ベンチャーで営業をはじめた私 は、基礎技術を売るために、まず民間ではなく国のプロジェクトに認めてもらい、その導入事例をもとに宣伝していく戦略を考えた。民間企業に買ってもらうには、商品としての使い勝手が練れていないと評価してもらえない。国のプロジェクトであれば、暗号自体の強度や斬新性で勝負できる可能性がある。
しかし、ベンチャーが国のプロジェクトにいきなり単体でノミネートできるわけがないので、プライム(元請)で受託してもらうSI会社と協力して提案していくことにした。プライムSI会社の担当者とのリレーションづくりを行うために、机ごとその会社に移動するような感覚で通いつめた。いろいろ勉強させていただいた。
「分からないことはお客様にきけ!」リクルート時代の上司の言葉を思い出し、何でもプライムの担当者に相談した。
そうして信用してもらえるようになってからは、その担当者と一緒に毎朝官庁に通い、各部署に営業に回る。少しずつ官庁関連のシステム担当の方々と関係が出来てきて、いくつか暗号を織り交ぜた提案を国に出せるようになってくる。提案の肝は、この暗号技術の差別的優位性をいかにアピールできるか?・・・要は、他の既知の暗号よりスピードが速いとか、強度が高い等を証明していくのだ。
その苦労が実り、1つの官庁への本格提案に成功した。はじめは小さい案件で実績をつくった。その実績を元に大型案件の入札に挑戦した。そして迎えた応札の日。結果の連絡は官庁担当官からプライムの担当者に入り、プライムの担当者から私に入ることになっている。
応札当日、夜8時になっても連絡が入らず、「駄目だったか?・・・」との気持ちが漂ってくる。そして、8時半に電話が鳴った。
「応札通ったよ!よかったね!」
この瞬間がある限り営業はやめられない。
リクルートコスモスではずっと営業一筋だったが、退社後、飲食店経営・中国貿易と、法人営業的動きとは違う世界にいたので、久しぶりに営業で決める快感を呼び覚まされた!
「やはり原点に返り、生涯一営業マンとしてやっていこう!営業を中心にビジネスを組み立てていこう!」
決意が心に宿った。