パニック・イン・テキサスタワー (1975) | 映画遁世日記

パニック・イン・テキサスタワー (1975)

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パニック・イン・テキサスタワー (1975)
監督:ジェリー・ジェームソン
出演:カート・ラッセル、ジョン・フォーサイス、リチャード・イニグェス、ネッド・ビーティ

※お約束ですが後半話題が脱線します

1966年8月にアメリカのテキサス大学オースティン校で起こった「テキサスタワー乱射事件」の映画(TVムービー)化。犯人のチャールズ・ホイットマンを若き日のカート・ラッセルが演じていることで有名な一作であります。この映画、前半のテキサスタワーからの乱射が繰り広げられる展開は非常に素晴らしいです。いささか不謹慎ではありますが「ずっと観ていたい」ような面白さ。

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それが、ホイットマンを射殺した人間達側のドラマ中心に物語が展開されるようになると(悪くはないのですが)急激に退屈に…。死人に口無しではありませんが、ここはホイットマン側の描写を盛りだくさんに、さらにはそのまま殺戮シーン中心で徹底して欲しかったです。いくら実話の映画化とはいえ、例えば「丑三つの村」でも皆が観たいのは殺人鬼の凶行シーンでしょう?

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よせばいいのにヒーロー側をじっくり描いた結果、本作を観た当人(ヒーロー)たちは「俺はこんなキャラじゃねぇ」だの文句タラタラだったというからどうしようもない。特に自身の妻を実像とはまるで違う口やかましいスペイン系の女性(実際はブロンド髪で青の目をしたドイツ人の奥さんだった)として描かれたラミロ・マルチネスはこの「パニック・イン・テキサスタワー」の制作者に対して訴えを起こしたりもしました。なんだかドロドロです。

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話はどんどん逸れていきますが、ぼかぁこのラミロ・マルチネスって人物がどぉ~も好きになれません。

当時ホイットマンをやっつけるべくタワーに登ったのは警察官のラミロ・マルティネス(Ramiro Martinez)、ヒューストン・マッコイ(Houston McCoy)、ジェリー・デイ(Jerry Day)、そして大学生協に勤める一般人アレン・クラム(Allen Crum)の4名でした。

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その中で結果的にホイットマンを射殺した人物とされていて、本作でもそう描かれているのがラミロ・マルチネス。さて、この4人がいよいよホイットマンのいる展望台に到達しようとした時、1階下の26階で家族をホイットマンに射殺され半狂乱になったM・J・ゲイバーなる人物が「俺にそのライフルを渡せ!」と迫ってきたといいます。そこで(この警官たちの上下関係がどうなっているのかは定かではありませんが)マルチネスはマッコイとデイに目で合図を送りゲイバーを取り押さえさせ、自分は階段を一気に駆け上がろうとします(「俺がヒーローじゃい!」)。しかしそれを見たクラムが「一人じゃ危ないから俺も行く!(「あんた一人でオイシイところ持って行く気か!」」)と叫ぶと「チッ」と思ったか思わなかったか、とりあえずマルチネスも納得し、2人で展望台の扉をこじ開けました。

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そこにホイットマンが待ち伏せていて2人を撃ち殺していたらかなり笑える展開だったのですが、残念ながらそんなことはなく、遅れてやってきたマッコイ(たぶんデイはゲイバーを押さえ付けたまま・笑)を加えて銃撃戦が展開されます。38口径リボルバーをバンバン撃ちまくるマルチネスをマッコイが落ち着いて散弾銃で援護射撃。対するホイットマンはもう息も絶え絶え。

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 それ、俺に貸せ

弾を撃ち尽くしたマルチネスは空になったリボルバーを放り投げ、マッコイの散弾銃をつかみ取りホイットマンにトドメの銃弾を放ち、声高らかに(集まった報道陣に聞こえるような大声で)

「I got him!」

と叫んだといいます。

…ぼかぁ英語の細かいニュアンスはよく分からないほうなのですが、とりあえず嘘でもいいから「We got him!」とか言えねぇのかコイツ(笑)。

※映画では「I got him!」のシーンはありません

一緒にその場にいたヒューストン・マッコイ、アレン・クラム、そしてゲイバーを押さえ付けたままの(笑)ジェリー・デイはその時どう思ったことでしょう。これ、マルチネス一人でやり遂げることなんて不可能だったのでは?半狂乱のゲイバーを押さえ付けるだけでも大変な仕事だと思うぞw

しかも、のちの検視の結果、ホイットマンを死に至らしめたのはマッコイが放った2発の銃弾(散弾が頭と首と左胸にヒット)だったと判明したという報告もあります。

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それでも世間的にはマルチネスがホイットマンを殺したってことになっているのです。「I got him!」と言ったもん勝ちみたいな。映画でも描かれているとおり、そもそも事件当日非番だった人間(笑)が出しゃばってここまで登り詰めたのだから大したもの。コイツのやることなすこと、正義感よりもヒーロー願望が勝っているようにしか見えないのは僕だけではありますまい。個人的にはコイツよりも家族を惨殺された悲劇の人、M・J・ゲイバーさんにヒーローになってほしかったです。


おわり