病気を宣告されてから1ヶ月半。妻の血球が、徐々に下がっていっていく中、お盆がきた。
我が家はまだ子供が小さいので、大きな花火大会ではなく、毎年、車で40分くらいのアウトレットモールの花火を見にいくのが恒例であった。
いつ入院になってもおかしくない状態の中だったが、妻はどうしても行きたいという。輸血のおかげでヘモグロビンも8%台でフラつきもないので、しっかり感染対策をして、出かけることにした。
着いたのが夕方、モールはガラガラだった。ブランド好きの妻が少しでいいからブランドショップが見たいという。
「少しでも気が紛れるのであれば…」。自分の大好きなブランドをいつも通り見て廻る妻。あるブランドでこの夏、気になっていたというサンダルを見つけた。
試着してサイズもぴったり。夏も終わるこの時期、大幅な値引きになっていた。とにかく久しぶりの破顔する彼女を見て、かなり値は張ったが、彼女の笑顔をとにかく私は見たかった。
少しでも張り合いになればいい。「元気になって来年の夏、これを履いて出かけよう」。一つでも目標は、多い方がいい。
そして、マジックアワーに。花火が始まった。暗闇に次々と浮かび上がる大輪の花に、夏休みどこにも連れて行ってもらえない子供たちは大興奮だった。
打ち上がるいつも通りの花火を見ていると、私はこの厳しい現実が、実は夢なんじゃないかと思った。
「この後彼女に待ち構えている辛く苦しい治療…」どんな状況になろうとも、一緒に乗り越えて、また元の生活に絶対に戻る...。
クライマックスを迎え会場は、一気に幻想的な世界に。静かに夜空を見上げる彼女の横顔を、私はじっと見つめていた。