世の中でよく「落ちぶれた」、「落ちぶれたくない」って、よく言うけどね。人間が「落ちぶれる」ってことは全くない。
それは「落ち着いた」っていうんだ。
どんな人でもね、実力がなくても、何らかの拍子に、天高く舞い上がることがあるよ。これは、焚き火をしたら、その熱風で、火の粉や灰が舞い上がるようなもんで、熱風が止んだら、落ちてくるよ。
それで落ちてから、
「俺は落ちぶれた!あんなに高く登り詰めていたのに!こんなはずじゃなかった!」
と嘆く。
違うよ。
今までがおかしくて、今、初めて、大地に足が着いたんだ。落ち着いたんだ。
実力もないくせに、空を待っている間は不安定で、心が不安だったはずだ。
俺の知っている奴も、大きな企業で上の方に行って調子に乗って、自分は何でも出きると思い、何でも出きると思うからこそ、何をやったら良いか分からなくて、自分の道にも迷って、悩んでいたんだ。
ところが、その企業がまさかの倒産よ。
回りにいた人は去って行くし、組織の力も威光も消えてしまったし、金も入らなくなった。
高層ビルで偉そうにしてたのが、大地に座り込むような日がきた。
昨日までは重役、今日はアルバイトですらない。
ところが、こいつは暫くすると、イキイキし始めた。回りに何もなくなったが故に、自分が存外、何も出来ない人間だと気づくと、同時に、確実に「自分にできること」、もしかしたら「自分にしかできないこと」を発見して磨き始めたんだ。
こいつは、何もないくせに、自分の道を見つけてウキウキしてきた。
それが、そのまま、そいつの生涯ゆるぎない事業となった。
だから、「落ちぶれた」んじゃない、「落ち着いたんだ」。やっと、自分自身の出発点を見つけたんだ。借り物でない自分の人生の出発を大地から始めたんだ。
空を舞ってる虚ろな灰の時代を懐かしむなんて馬鹿げたことだ。
自分の足で大地を歩ける時がきたと言うのに!
(聞き書き 不動武)
