中村屋の若旦那を思い出す | My Favorites

中村屋の若旦那を思い出す

…あ、若旦那と言っても加藤さんのことではなく
七之助さんとかでもなく
もちろん中華まんの新製品の名前でもなく

つかこうへいさんの「銀ちゃんが逝く」の中村屋喜三郎さんである
「銀ちゃんが逝く」は「蒲田行進曲」の続編

これが大分で上演された時、なんとチケ代は千円だった
これはつかさんからの挑戦状だと思い10日分全部買った
まあ、1回の交通費が2千円以上かかるんだけんども
春田純一さんが出ているのですもの、行きますわ、ええ、行きますとも

さて、初日を迎え、わくわくしていると
芝居が始まる前に春田純一様が出てきておっしゃる

「私は明日東京へ帰ります」

…なんですと?
…私の残り9枚はどうしてくれる?

「女房が危篤です、私を支え続けてくれた女房です
この先、二度と舞台に戻れなくても、あいつの側にいてやりたい」

…しくしく…あ…あああ…「お祝い」って差し入れ、さっき預けたばかりや
泣き続けたさ…ああ、だまされたよ
彼はその時結婚すらしてなかったのに…私の10日間の反省を返せ
…は、置いておきまして

この時、春田さんは40前で、代役の佐藤和久さんは20代前半
演じるは歌舞伎役者の中村屋喜三郎

まず演出が変わった

「まあ、そう言うな、俺だってつれえんだから」

春田喜三郎は銀ちゃんを叩きのめす
そして上から言う

佐藤喜三郎は銀ちゃんに叩きのめされる
立ち上がり裾の泥を払いながら言う

これ全然違う

あと、女房語りが違う

佐藤喜三郎の女房は「辛かった、辛かった、辛かった」
そう言って喜三郎の前で泣き叫んで舌をかむ
「辛かった、辛かった、辛かった!そう言ってあいつ、舌かんで死にやがった」
ここ一直線、そんな感じ

春田喜三郎の女房は「辛かった」
そう言って喜三郎に微笑んで舌をかむ
「辛かった、そう言ってあいつ、舌かんで死にやがった」
ここまでは坦々と、なんの意味さえないように、でもその後に
「舌かんで、舌かんで死にやがった」ここ慟哭
銀ちゃんの顔は見ない
銀ちゃんの肩に手をかけて下を向き、観客にも顔は見せない
泣いているのかと思わせて、顔をあげた時はいつもの中村屋

この時、もしも万が一
私が同じ道を辿る事があったら、絶対微笑んで逝ってやろうと思った瞬間

血を残さなければいけない家業の男は恋女房に客を取らせて自滅する

でもね

一緒に生きてくれる男を見つけられる女は数多く
たまに一緒に死んでくれる男を見つけられる女もいるのだけれど
後を追ってくれる男を見つけられる女はそうはいないじゃない?
女冥利につきますよね、と言ってあきれられましたが
絶対自分がその道歩かないのはわかっているので言える事です、はい

そんな私が中村屋に感じたのは「さわれない」ってこと

佐藤喜三郎は日本刀のようでさわれない
春田喜三郎は砂で作ったお城のようで、脆すぎてさわれない

ただ春田喜三郎のような男は、たぶん女は捨てられない
かかわったら一緒に堕ちていくしかない

…出会いたくない男ランキング、「RAINBOW」の石原なみよね

すごいなって思ったのは、演者によってがらりと演出を変えたこと
台詞はほぼ変わってないもん
でも全く違う役、違う作品になっていた
そしてどちらもおもしろかった


なんでこんなことを長々と思い出したかというと
「フワフワ」と「飄々」
柄谷さんが原作から感じた久保ちゃんは「フワフワ」
さて、吉谷さんは久保ちゃんから「フワフワ」を感じてたんだろうか?ってこと

原作を1・2巻しかまだ読んでないので
ここはひとつ潔く無視することとして(←するなっ!)
私が「久保ちゃんラヴ!」になるとしたら
1番の近道は「飄々」
強くてクールで、ある意味、自分の「生」についてさえ執着してなくて、だから強い
単に時任も「大きい猫拾った」ので「面倒みる」みたいな
でも「うちの猫なんで」拾ったからには「助ける」みたいな
あくまでも見た目は庇護者、守る者、しょーがなく

なんだけど本当は執着してるのは久保ちゃんで
時任以外は皆そのことに気がついているんだけれども
最後まで時任は気がつかない…みたいな

「ああ、時任になりたいっ!!!!」とからたにすとに叫ばせる久保ちゃん

この久保ちゃんの場合、沙織を助けに走るのは
「時任が見舞いに行った」から
あの子は必ず後を追うから
浮かぶのはあの子の死体…それはだめ…見たくない…
考えるより先に走り出す、身体が動いた…そんな久保ちゃん

…あら、きゅんきゅんくる

もう1つの道は柄谷さんの言った「フワフワ」の極

これはもうラストオンリーに賭ける

天に焦がれて焦がれて
だけども羽は折れてちぎれて
ふわりと浮き上がることしかできなくて
遥か遠くの故郷を仰ぎ見て儚くなっていこうとするその人を
獣人化した右手が繋ぎとめる

この場合、意識がつながっている儚の一瞬に
そっとふれたその手を獣の手はぐっとつかんで引き戻さねば
そして天女は地上に堕ちる

「柄谷吾史、君こそヒロインだ!!」

その路線

今回の演出は「もう1つの道」の方で
なんだけれども私には「たった一つの執着・たった一つ繋ぎとめたもの」感がもひとつ弱く
なおかつ、柄谷さんの殺陣が衣装によって制約をうけるっつー
主役だからって上等な生地を使えばいいってものではなくってよーー!!
加藤さんのひらひらくらいの薄さで良くってよーーー!!

それでも柄谷さんは努力の人なので大阪の倍方、蹴り上げる足が美しく見えるようになっていたんだけんども

それでもーーーーーー!!!
殺陣フェチはあえて叫ぶーー!!
高倉さんと柄谷さんの至宝とも言える殺陣を返せーーー!!!
てか、戦え司令塔!!!OKだすな、演出家ーー!!
もったいないおばけが出てくるぞー!!ぜいぜい…

あとですね、たまーに私の求める間が違っていて

例えば時任が「おっちゃん、死体見せて」って言った時
あの後の「時任!」に私は「おっ、止めるのね、そうよねぇ」と思う間がほしい、んで
「頼み方が間違ってる、お願いしま~す」
…そっちかよ…と思いたかったりいたします

しかしまぁ、なんだかんだ言っても柄谷さんの作る久保ちゃんは「かっこいい」
ひたすらかっこいい、とてつもなくかっこいい、どえりゃーかっこいい

なんだけれどもしかし

私の「惚れる」ポイントは「きゅぅぅぅぅん」なので
やっぱり1番さんは加藤巨樹さん継続中なのでありました(←結局はそれが言いたい)

そんな加藤さんについては後日また語ります



■と、ある日

うめき声?

「時任?」…手をドアノブに伸ばした刹那

「入ってくんな!」

パシッ…遠くで氷が割れる音がする

「…でも、そこにいろ」「うん」

ほっと息を吐く
もう少し…もう少し大丈夫


なんとなーく、このシーンを思い出して
久保ちゃんはずっと薄い氷の上を生きてきた子なんだなぁって思う

「俺、いないって設定だったみたいで…」

さらっと言ってますけど、それあなたの「親」の話でしょう?

なので、時任との出会いは久保ちゃんにとって「運命」だとは思うけど
どちらがこの子のためなのか私にはわからない

いつ氷が割れてもいい、そう思っていた時の方が生きていく分には久保ちゃん強い

時任くんっていう木漏れ日は暖かいのだけれど
確実に久保ちゃんの足元の氷をとかしていく子だから

ある日ぱりって氷が割れて、瞬時に逝ってしまうのと
木漏れ日に手を伸ばしながらゆっくりと水に呑まれて逝ってしまうのと
どちらが楽なのかはわかる
でもどちらが幸せなのかはわからない

でもゆっくりいきたいとあの子が望むなら、きっと沈みながらも微笑んでるんだろうなぁ

そんな事を考えた東京「WA」でした

私はこの作品、とても好き